第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-7] ポスター:精神障害 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-7-3] 精神科急性期病棟入院患者のセルフマネジメントと失体感症における要因構造の推定:交差遅延効果モデルに基づく予備的研究

川口 敬之1, 村田 雄一2, 山元 直道2, 渡邊 愛記3, 森田 三佳子2 (1.国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部, 2.国立精神・神経医療研究センター病院精神科リハビリテーション部, 3.北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)

【はじめに】精神疾患を有する患者の精神的健康を高めるための有効な支援策として,セルフマネジメントが注目されている(Lean M, 2019).また,入院を経て地域生活に戻る患者のセルフマネジメントを高めるために,身体感覚の低下状態を表す概念である失体感症(Ikemi Y, 1979)を改善するための支援策の検討が求められている.しかし,セルフマネジメントと失体感症の関係については明らかではない.本研究の目的は,精神科急性期病棟の精神科作業療法(pOT)におけるセルフマネジメントを高める方策を検討するための予備的研究として,セルフマネジメントおよび失体感症の要因構造を明らかにすることである.
【方法】対象は,2021年11月〜2022年6月に精神科急性期病棟入院患者のうちpOTを実施した患者であった.セルフマネジメントの評価には日本語版Mental Health Self-management Questionnaire(MHSQ-J)(Morita Y et al, 2019),失体感症の評価には失体感症尺度(Shitsu–taikan–sho scale: STSS)(Arimura T et al, 2012)を用いた.分析では,MHSQ-JとSTSSにおける要因構造を検討するため,交差遅延効果モデルによりpOT開始時と退院時の2時点のデータを分析した.モデルの適合度指標としてχ2値,GFI(Goodness of Fit Index),CFI(Comparative Fit Index),RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)を用いた.統計学的有意水準はp<0.05とした.本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した(A2022-032).
【結果】対象は,52例(女性42例,男性10例,年齢38.3±16.3歳)であった.診断カテゴリーは,気分障害が最も多く15例(28.8%),神経症・ストレス関連障害11例(21.2%),統合失調症10例(19.2%),その他16例(30.8%)であり,入院期間は47.3±33.0日,Global Assessment of Functioningスコアは33.0±8.8であった.各評価の平均[pOT開始時,退院時]は,MHSQ-J[28.1±11.0,41.3±11.8],STSS[64.0±14.4,58.1±11.8]であった.交差遅延効果モデルの適合度は,χ2=32.010,GFI=1.000,CFI=1.000,RMSEA=0.035と十分な値を示した.MHSQ-JとSTSSの要因構造について,退院時MHSQ-Jに対するpOT開始時MHSQ-JおよびpOT開始時STSSの標準偏回帰係数はそれぞれβ=0.580(p<0.001),β=0.299(p<0.001)であった.さらに,退院時STSSに対するpOT開始時MHSQ-JおよびpOT開始時STSSの標準偏回帰係数はそれぞれβ=0.097(p=0.219),β=0.740(p<0.001)であった.
【考察】精神科急性期病棟のpOTにおけるMHSQ-JおよびSTSSの要因構造について交差遅延効果モデルを用いて分析した結果,退院時MHSQ-Jに対しpOT開始時MHSQ-JとpOT開始時STSS,退院時STSSに対しpOT開始時STSSが関連していたことから,MHSQ-JとSTSSの因果関係が推定された.pOT開始時のセルフマネジメントや失体感症が低い患者は,退院時のセルフマネジメントが低くなることが推察でき,pOT開始時におけるセルフマネジメントや身体感覚の主観的な状態のアセスメントが重要であると考える.本研究結果は,精神科急性期病棟のpOTにおけるセルフマネジメントや失体感症に対する評価および支援策の検討において基礎情報となり得る.