第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-7] ポスター:精神障害 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-7-5] 難治性うつ病に依存性パーソナリティ障害が併存した事例への自律を目指した精神科作業療法

二田 未来1,3, 早坂 友成1,2,3, 長島 泉1,2, 櫻井 準1,3, 渡邊 衡一郎1,3 (1.杏林大学医学部付属病院精神神経科, 2.杏林大学保健学部作業療法学科, 3.杏林大学医学部付属病院精神神経科学教室)

【目的】難治性うつ病(TRD)患者では神経発達症,不安症,パーソナリティ障害(PD)などの併存疾患が認められる.なかでもPDを併存したTRD患者の割合は高く,症状の遷延や治療反応不良の一要因とされ,特性を踏まえた介入が重要とされている.本報告では,TRDに依存性PDを併存した事例に対し,精神科治療における主たる介入として作業療法(OT)を行った経験を報告する.発表にあたり,本人に趣旨を口頭にて説明し同意を得た.
【症例】50歳代女性,離婚を経て現夫と同居.音大卒業後しばらくして幼少期から支配的であった母のピアノ教室で教師を務めた.同時期より人混みでの嘔気や不妊に悩み,夫以外の他者とは没交渉となった.X-3年下肢負傷による術後,疼痛と遷延する抑うつ状態にて他院を初診した.X-1年当科に紹介され,精査目的で検査入院となった.依存性PD,回避性PDなど複数の併存疾患を有したTRDと診断され,特に依存性PDの症状が強いことが明らかとなった.外来治療において徐々に「一人では何もできない」と自覚するようになり,自律を目標とするようになった.OTが生活改善の契機となり,自律した生活が気分改善や行動範囲の拡大に寄与することが期待され,X年当院に任意入院となった.
【OTプログラム】作業療法士(OTR)2名が担当した.芸術や集団適応などを週2回,合計4枠で行うとともに個別面談を実施し,毎回10名前後が参加した.参加前後に自記式シートで自己評価,気分,参加意欲を評価した.
【経過】
OT開始前:生活目標がなく,家事や電車へ乗る事の困難や現状の変化に恐怖を感じていた.
導入期:導入面接では「OTはスッキリするのでやりたい」と述べた.生活目標を問うと「他人軸で生きてきたので自分で決められず情けない」と答えた.全活動に参加し,塗り絵で自己評価の改善がみられた.内服治療が開始となり,散歩や買い物が徐々に可能となった.
継続期:初体験の指編みは失敗の不安があると相談があり,支持的に関わった.作業が問題なく開始でき,「できることが増えうれしい」と自己評価や気分の改善がみられた.集団ちぎり絵では,OTRの援助が必要な難所を敢えて選択した.困った時は相談することを保障すると,周囲と相談して最終的に完成させた.数回の経験を経て作品作りでの主体的な行動が増えた.個別面談では,幼少期の体験から失敗の恐怖で行動が慎重になり新規作業や時間を要す作品への回避について述べた.OT以外の時間は他患者と散歩できるようになった.
集結期:指編みでは自分で工程の修正や毛糸の締め具合の調整などを行い,「編むコツが分かった」と述べた.OT以外の時間は,院内の喫茶店通いなど行動範囲が拡大し,他患者に向けてピアノ演奏も行った.第27病日に退院となり,自宅でも簡単な家事や外出を行うことが目標とされた.OTに単独通所するのが難しいと訴えたため,主治医の診察にあわせて個別でOTを行う方針となった.
【考察】依存性PDが併存するTRD例には,作業活動の枠組みを明確にし,治療構造に基づくOT展開が基本となる.事例は夫への依存の自覚を契機に,活動の自律に意欲的となっていたため,入院でのOTは安心しながら挑戦できる場となった.夫以外との他者交流やOTRの支持的かつ主体性を促す関わりも重要であったと考える.今後の外来集団OT治療を見据えて,外来で個別介入を継続することは,定期的な自律活動の場の提供となる.本人や診療体制の状況にあわせた構造化された個別介入は,入院治療から外来治療への継続的で円滑な支援を可能にすると考える.