第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-8] ポスター:精神障害 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-8-1] 統合失調症患者に足湯を実施し精神的変化に着目した症例

佐藤 優衣 (西八王子病院リハビリテーション科)

【はじめに】精神疾患に伴い身体感覚違和を抱える者は多く,統合失調症を抱える患者は健常群と比較して,身体感覚に麻痺や硬直感を抱えている(大塚尚,2012)という報告がある.今回統合失調症を抱え幻聴により日常生活に支障を来しているクライアント(CL)に対し,足浴を用いた個別作業療法介入(OT)を実施した.その結果,幻聴を訴える頻度が減少し,自身の身体感覚に気づきが生まれ,言語での表出が可能となった.本報告の目的は,個別での実践報告が少ない精神科OT領域において,足浴を用いた感覚へのアプローチについて検討することで,今後の作業療法実践の一助とすることである.尚,報告に際し口頭と書面で本人と家族に説明し,同意を得た.
【初期評価】A氏50代女性,夫と2人暮らしをしていたが,X-9年に幻聴出現し統合失調症と診断を受ける.その後,日常生活に支障を来すことが多くなりX-4年B病院入院となる.入院時より危機管理能力の欠如により,胴抑制実施していた.集団OTやADL以外はベッド上で過ごす時間が長かった.離床意欲は高いが,幻聴の訴えも多く,動作は性急で幻聴に左右された突発的な言動が多くみられた.歩行中は事前に決められた時間や距離を守ることが出来ない,他スタッフが通りかかると急停止し話しかけるなどの行動がみられた.Visual Analog Scale(VAS),Face Rating Scale(FRS)は「大丈夫」と回答するのみで精査困難であった.
【介入方針】リラックス効果のあるアロマオイル(ラベンダー)を用いた足浴を週3回15分行い,実施中は自身の身体感覚を意識できるような声かけを行うようにした.ラベンダーの効果として,ストレス解消・鎮痛・抗菌・不安軽減・精神疲労軽減・皮膚バランスの調整が挙げられる.
【経過・結果】初回の足浴介入時,OTの指示に従えず,準備前に桶に足を入れようとする等の行為がみられた.足浴開始時はそわそわと周りを見渡すなど落ち着かない様子であったが,5分後には自身の足を注視する様子があった.気分について尋ねると,「落ち着く」「安心する」と発言があり,15分間離席途中退席なく実施可能であった.終了後は初回評価時に精査困難であったVASやFRSに回答が得られた.VASは5から3,FRSは5から4へ変化があった.実施中はOTの指示に従うことができ,気が逸れることがなく足湯を続けることができた.幻聴に関する訴えや言動はなく,「最近聞こえなくなった」と発言があった.
【考察】慢性期統合失調症患者の身体的ケアは変化をもたらせるケアの一つとして幅広く活用できる(川田美和,2015)とされている.A氏にとって足浴は自身の身体感覚に注意を向けるきっかけとなり,幻聴や外部刺激に左右されずに過ごす時間を提供することが出来たと考える.その結果,自身の身体感覚(痛み)や気分について言語表出が可能となった.本期間内では,具体的な部位などは表出不能であったが,継続した介入により改善の可能性があると考える.アロマオイル(ラベンダー)も相乗効果を発揮したのではないかと考える.