第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-12] ポスター:発達障害 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PI-12-3] 関わりの工夫や環境への配慮が,遊び場面での試行錯誤に繋がった事例

岡本 亜佐美, 山下 茉依, 伊井 玄 (静岡済生会総合病院 静岡済生会療育センター令和療育技術科)

【はじめに】日常生活動作(以下,ADL)にて試行錯誤が少なく介助が多い事例を担当した.遊び場面においても試行錯誤が少なく途切れやすい事例に対し,遊びに向かう姿勢作りのための身体機能面への介入に加え関わりの工夫や環境調整を実施した.その結果セラピストと楽しさを共有する場面が増えた事で,意欲や達成感が向上し遊び場面で試行錯誤をする姿が見られるようになるなどの効果が見られたため報告する.発表に際し当院倫理委員会の承認とご家族の同意を得ている.
【事例紹介】広汎性発達障害と診断された4歳男児.こども園に通園し加配あり.児童発達支援施設に週1回通所.好きな物は動物などの可愛い物,ごっこ遊び.新版K式発達検査は全領域2Y5M.
【作業療法評価】身体機能は低緊張で姿勢保持が困難.不安定な場所ではバランスを保つ事が難しい.認知機能は視覚刺激に反応しやすく注意が逸れやすい.弁別や因果関係は理解可能.遊びの様子では達成感の感じにくさがあり,課題達成のための意欲も低いため試行錯誤が少なく,出来ない事があると自分の好きなように遊ぶ.コミュニケーションでは表出は三語文以上.理解は口頭指示に加え見本を見ると理解可能.ADLは未自立.
【方針】ADLへの汎化を考慮し遊び場面で試行錯誤が増える事を目標として,姿勢保持の改善に向けて粗大運動を通した身体機能面への介入を実施した.加えてセラピストに注意を向けたり,意欲や達成感向上のため関わりの工夫や環境調整も実施した.関わりの工夫では,褒めて喜びを共有し声掛けはトーンや声量を変えた.また,信頼関係を形成するためにもごっこ遊びを始めた時は制止せず,事例に寄り添う時間も設けた.環境面では物が少ない個室で対応した.視覚情報を手掛かりにできるようにコントラストがはっきりした色の物品や事例の好きな動物の物品を取り入れた.課題の量も調整しスモールステップで成功体験を積めるよう配慮した.
【経過】セラピストや遊びに注意が向く時間が増え,遊びの中でセラピストに褒められたり,一緒に遊んで楽しい経験を積み重ね信頼関係が徐々に形成された.事例の好きな物品を使用したり課題の量を調整したことで意欲や達成感が少しずつ向上した.
【結果】セラピストに注意が向く時間が増えた事で助言や声掛けが聞けるようになった.繰り返す中で,今まで取り組みが続かなかった粗大運動の場面で不安定な場所でも持続的にバランスを保つことが出来るようになった.そして,出来ない時は方法を変えたり道具を使うなどの試行錯誤が出来るようになった.
【考察】離席する・話が聞けない・集中力がない児童への支援方法として,視覚的に訴える・気が散りやすいので刺激を少なくする・スモールステップで課題を小分けにする・信頼関係を崩さない事が効果的だと述べられている(田中康雄ら.2006).今回,視覚的な環境調整が活動に注意を向け続ける事への配慮に繋がり,集中して取り組める時間が増えたと考える.また,褒め方の工夫によりセラピストと楽しさや嬉しさを共有し信頼関係が形成され,さらに事例の好きな動物の物品を使用した事で意欲や達成感が向上したと考える.意欲や達成感が向上した事で,粗大運動への取り組みに繋がり体幹機能や姿勢保持能力も向上した.身体機能面への介入の中で様々な配慮や工夫をした事が,身体機能面の成長だけでなく遊びの中で試行錯誤をする力に繋がったと考える.また,ADLへ汎化できるよう引き続き評価や介入を継続していきたい.