第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-4] ポスター:発達障害 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PI-4-3] 就学前に困難さを予測し対応した読み書き困難児の経過報告

山本 健太1, 安部 佑菜1, 地内 亜紀子2 (1.横浜市総合リハビリテーションセンター, 2.ぴーす新横浜)

【はじめに】
文字習得の困難さは,学校生活の不適応に影響する為,早期対応が必要である.当センター児童発達支援事業所では,読み書きのスクリーニング検査を実施している.今回スクリーニングで読み書きと視覚情報処理の困難さが予測された児を担当した.就学初期より対応し,文字習得及び学習への取り組みに一定の成果を得られたので報告する.なお報告に際し,保護者および本人の同意を得ている.
【事例紹介】
小学1年生女児.在籍は特別支援学級.診断名は自閉スペクトラム症.精神発達に遅れは見られない(IQ98:田中ビネー式知能検査Ⅴ).マイペースさや,律儀さ,失敗への抵抗の強さがある.日本版乳幼児感覚プロファイルでは,感覚過敏の傾向が強く,特に視覚と聴覚の過敏性が目立った.作業療法開始時(Z日)は読み書きの困難さが顕著で,課題の取り組みに拒否を示した.
【介入経過】
児童発達支援事業所利用の年長児を対象にスクリーニング検査を実施(Z日−6ヶ月).検査項目は,猪俣ら(2016)を参考に“読み達成度”“自動化(RAN)”“視覚認知(VMI)”“目と手の協応”“空間認知”“視覚性の記憶”“音韻認識” “ワーキングメモリ”とし,カットオフ値を設定.検査は保育士が実施し,検査後に保育士,心理士,作業療法士でリスク検討を行った.本児は“視覚性の記憶”以外の項目でカットオフ値を下回った.また明るさを嫌う傾向や,文字が揺れて見える等の訴えがあった為,就学後に作業療法評価を実施した(Z日〜+4ヶ月:計3回).
作業療法初回は,読字はひらがな数文字,書字は不可.読み書きに関する検査は実施できなかった.「文字が動く」という視覚の主観的な歪みの説明が, Irlen 症候群の特徴に類似していると推察し,カラーフィルムを通しての読字を試行した.本児はピンクカラーフィルムが見やすいと選択し,使用直後から逐次読みでの音読が可能になり,「文字が動く」の訴えはなくなった.学校でもピンクの下敷きの使用を促したところ, 評価3回目では,読み誤りや時間がかかるが,教科書(1㎝四方,60文字程度)の音読やひらがなの模写が可能となった.
【最終評価】
Z日+6ヶ月に学習状況を確認した.母から,「ピンクレンズの眼鏡を家で使っている」「文字への興味が出てきた」とのコメントがあり,本児は「小さい字は,ピンクの下敷き(眼鏡)がないと読めない」「大きい字は読める」と状況説明が可能だった.学校ではカラーフィルムの使用や拡大コピーでの対応で学習できているとのことだった.読み書きの習得度は,正確性(読み/書き)をSTRAW,流暢性(読みのみ)をURAWSSⅡで測定.STRAWは,1文字の読みが20/20(95%ile),書きが16/20(10-25%ile),URAWSSⅡは,100文字/分(評価C・正答5/6)と読みの流暢性や書きの正確性に弱さがあるも,習得度に変化が見られた.
【考察】
本事例は,就学前に読み書きのリスクを予測し対応に繋げた事で,読み書きの習得度や「学習」への作業従事に変化がもたらされたと考える.読み書きの困難さに対しては,早期発見の為の評価が難しく検査が不足している(東俣,2017).今回スクリーニング検査と多職種でリスク検討を行い,個別評価に繋げた事と,家庭や学校での具体的な支援を提供した事が有効だったと考える.今後の課題として,検査の精度及び有効性の検証が必要と考える.
なお本事例は,Irlen 症候群の特徴と類似しており,カラーフィルムでの対応を実践したが, カラーフィルムの治療効果に懐疑的な意見も見られる(佐藤,2021)為,今後も経過を確認していく必要があると考える.