第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-8] ポスター:発達障害 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PI-8-6] 外来リハビリテーションにて,HABIT-ILEを実施した脳性麻痺児の一症例

工藤 大弥, 強口 朋美, 鈴木 瑠璃夏, 伊藤 薫, 三屋 邦明 (千葉県千葉リハビリテーションセンターリハビリテーション治療部)

【はじめに】脳性麻痺児(痙直型片麻痺)に対し,エビデンスの高いリハビリテーションとして,Constraint induced movement therapy(CI療法)が確立されている.しかし,脳性麻痺児においては「発達性不使用」「拘束に対する心理的ストレス」「モチベーション」を考慮する必要があり,導入が困難となる例が多い.そこで近年,脳性麻痺児(痙直型片麻痺)のためにHand-arm bimanual intensive therapy including lower extremities(HABIT-ILE)が2011年に開発された.HABIT-ILEは,拘束がなく,本人が自発的に選択した遊びの中で両上肢と同時に下肢・体幹にアプローチを行う介入方法である.海外の先行研究では,カナダ作業遂行測定(COPM)や運動機能の向上が報告されているが,本邦での報告は少ない.今回,未就学の脳性麻痺児(痙直型片麻痺)に対し,外来リハビリテーションにてHABIT-ILEを実施した.COPM,運動機能の向上を認めたため報告する.
【事例紹介】3歳3ヶ月の女児.24週3日,647gにて出生.日齢1日目に脳出血を発症し左片麻痺を呈した.GMFCSレベルⅡ,Mini-MACSレベルⅡ,CFCSレベルⅡ,VFCSレベルⅠ.当センターで外来にてPT,OTを各月1回,ボツリヌス療法を4ヶ月に1回の頻度で実施していた.その他,週1回療育センター,週1回リトミックに参加していた.母親からは来年度の幼稚園入園に向け,更衣動作の獲得と介助指導の希望が聞かれた.
【初期評価】COPM(遂行度/満足度):①被り着の着脱(3/5)②ズボンの着脱(3/5)③靴の着脱(1/1),上肢機能の質的評価法(QUEST):「B.把持」左8.34,ボックスアンドブロックテスト(BBT):左8個,粗大運動能力尺度(GMFM-66):56.4,リハビリテーションのための子どもの能力低下評価法(PEDI):セルフケア(機能的スキル/介護者による援助)45.2/25.4,更衣動作:全介助.自分でやりたい意欲はあるものの,麻痺側上下肢の拙劣さや座位・立位バランス不良のため,動作困難となりイライラしてしまう.主訴(母親):「どのように教えたり手伝ったりしてあげればいいか分からない」
【方法】外来にてPT,OTを各週1回,自宅にて目標に合わせたメニュー(毎日20~60分)を4週間実施した.自宅練習が中心となるため,遊びの中で見るポイントや難易度調整方法を記載した写真付きのメニュー表を作成した.また,毎日の記録と振り返りのために母親用の日記を作成した.週1回の外来では,日記をもとにセラピストからのフィードバックと今週の重点課題を母親と相談し設定した.
【結果】合計実施時間は22.5時間(+療育,リトミック)だった.COPM:①5/7②5/7③5/7,QUEST:25.00,GMFM-66:60.6,PEDI:53.0/35.0と,いずれの項目においても向上した.また,母親からは「自宅練習はあまり負担がなかった」「障害のある子に対して,どのように本人の動きを見ていったらいいか分かった」と,支援に対し前向きな発言が聞かれた.
【考察】先行研究(Bleyenheuft 2015)におけるHABIT-ILEは,6歳以上を対象とし,合計85~90時間を目安に,1日5~6時間を連続で10~14日間実施している.今回,外来(通院)という形態であるため,連続した介入,合計実施時間,セラピストの直接的な介入が不十分であると思われたが,本症例においては,メニュー表の活用や今週の重点課題を設定したことで,母親が見るポイントを理解しながら関われた.また,自宅で取り組むメニューは「遊び」であるため,母親にとっても負担が少なかった点や自宅環境での介入がCOPM,運動機能の向上に繋がったと考える.本人だけでなく,保護者への支援を重視することで,外来リハビリテーションにおいても十分に効果が得られると示唆された.
【倫理的配慮】本報告は,当センター規定の書式と口頭にて保護者に同意を得ている.