第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-1] ポスター:高齢期 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-1-6] 転倒予防のためのICTを用いた高齢者の自宅の安全評価に関する予備的検討

長谷川 文1, 木全 千佳2, 松岡 友絵2, 林 咲子2, 池田 裕基2 (1.名古屋女子大学医療科学部作業療法学科, 2.総合上飯田第一病院リハビリテーション科)

【はじめに】自宅退院前の高齢者や在宅高齢者に向けた作業療法士(OT)の支援の1つに,転倒予防のための自宅の安全評価がある.一般的に,OTは高齢者の自宅を訪問して転倒ハザード(危険)を評価(現地評価)するが,時間と労力を要す.よって,支援が必要な高齢者に評価と整備が行き届いていない可能性があり,支援を更に届き易くする必要がある.現地評価以外で転倒ハザードを評価する方法としてICTの活用が考えられるが,これまでその可能性については十分検討されていない.本報告の目的は,ICTを用いて,高齢者の自宅の転倒ハザードを,遠隔からの評価(遠隔評価),録画を用いた評価(録画評価),現地評価の3つの方法で評価し,その実施可能性について予備的に検討することである.
【方法】在宅高齢者1名を対象に,病院勤務の作業療法士(OT)5名と大学勤務OT1名が,自宅の転倒ハザードを評価した.その評価結果の一致率を調べた.また,評価後,病院勤務OT5名と家族1名はアンケートに回答した.評価対象の高齢者はA氏,80代後半女性,夫と2人暮らし,要介護1,変形性両膝関節症,屋内外独歩,ADL修正自立,IADL軽介助,転倒歴頻回,MMSE-J 23点,Functional Balance Scale 50点.病院勤務OT2名が遠隔評価を,3名が録画評価を,大学勤務OT1名が現地評価をした.転倒ハザードの評価には,Westmead Home Safety Assessment日本語版(WeHSA-J)を用いた.WeHSA-Jは72項目の転倒ハザード(例.フロアマット,浴室)で構成され,各項目についてハザード有/無の2件法で評価する.使用しない,あるいは設備がない場合は「非該当」とする.評価前にOT6名は「非該当」項目を一致させ,A氏の上記情報に加え,紙面で自宅の間取り図,手すり設置箇所,転倒場所等を共有した.評価時には,家族がA氏の自宅での動きをスマートフォンで動画撮影し, Web会議システムZoomで遠隔評価者へ中継した.また,遠隔評価者がA氏の生活状況を聴取し動きを指示した.現地評価者と遠隔評価者は同時に独立してWeHSA-Jを実施し,録画評価者は録画を用いて独立にWeHSA-Jを実施した.全評価者がWeHSA-Jを完了後,遠隔評価者,録画評価者および家族は,アンケート5件法(1:全くそう思わない~5:とてもそう思う)に回答した.なお,倫理的事項を遵守し,A氏,家族およびOTに本実施と報告の趣旨を説明し同意を得た.また,開示すべきCOIはない.
【結果】WeHSA-J 72項目から「非該当」20項目を除外した52項目の評価結果一致率は,現地と遠隔評価間で86.5~90.4%,現地と録画評価間で73.1~76.9%,遠隔と遠隔評価間で80.8%,遠隔と録画評価間で63.5~75.0%,録画と録画評価間で57.7~65.3%であった.アンケート結果は,『必要な情報の量を得ることができた』では,遠隔評価者は「2:あまりそう思わない」1名,「3:どちらともいえない」1名であり,録画評価者は「2:あまりそう思わない」,「3:どちらとも言えない」,「4:ややそう思う」が各1名であった.また,『現地評価と比べて負担でない』では,遠隔評価者は「5:とてもそう思う」,「3:どちらともいえない」が各1名であり,録画評価者は「4:ややそう思う」2名,「5:とてもそう思う」1名であった.その他,素材や距離感等の分かりづらさ,事前情報の提示方法に関する工夫,臨床で実施できそう等の意見があった.
【考察】録画評価は一致率が低く,視覚情報がより得にくい可能性があった.しかし,今回は一事例の報告ではあるが,ICTを活用した評価でも一定の自宅の安全評価ができる可能性を確認できた.今後の課題として,視覚情報を補填する方法や,評価対象者の事前情報の提示方法等の検討が考えられた.