第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-12] ポスター:高齢期 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-12-2] 精神科病院における認知症高齢者の嗅覚機能の重症度別比較

大中 さおり1, 天野 今日子1, 見形 紘子2, 兼田 絵美3, 上城 憲司4 (1.医療法人 社団 緑誠会 光の丘病院, 2.国保野上厚生総合病院, 3.東京医療保健大学, 4.宝塚医療大学)

【目的】本研究は,精神科病院に入院中の認知症高齢者を対象とし,嗅覚・生活機能を比較検討することで重症度別の特徴を明らかにすることを目的とした.
【方法】
1.対象
対象は,精神科病院に入院する認知症高齢者とした.
2.評価項目
1) 嗅覚機能の評価:①嗅覚同定検査(Open Essence;OE),②匂いの自覚検査(VAS,日常生活の匂いの観察評価(都築ら 2009)を用いた.OEのカットオフ値は7/8点であり,7点以下は嗅覚機能低下があると判定される.
2) 生活機能の評価:①認知症重症度(CDR), ②認知機能(MMSE),③認知症の行動・心理症状(DBD),④ADL(FIM),IADL(老研式活動能力指標)を用いた.
3.倫理的配慮
対象者に研究の趣旨と内容,得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと,個人情報の漏洩に注意すること,研究への参加は自由意志であり不参加であっても今後の治療に不利益がないこと,研究のどの時点においても同意撤回ができることについて口頭と書面で説明し,研究の同意が得られたものを対象とした.また,本報告は当院の個人情報保護規則に準じた倫理審査を受け承認されている.
【結果】対象者は6名(女性4名,男性2名),平均年齢70.3±9.1歳であった. CDRをもとに対象者を重症度別に分類した結果,軽度群3名,中等度群3名となった.OEのカットオフ値(8点)以上の対象者は軽度群の1名(17%)のみであった.認知症の重症度別に各測定項目を比較した結果,中等度群は軽度群に比して嗅覚機能,生活機能の平均値の低下が認められた.一方,匂いの自覚は,軽度群の平均値の方が低かった.
OE下位項目の正答率と自覚率を比較した結果,OE下位項目の自覚率(77.8%)は正答率(40.3%)に比して,1.93倍高かった.重症度別においては,軽度群の自覚率(80.6%)は正答率(47.3%)に比して1.7倍,中等度群の自覚率(75.0%)は正答率(33.3%)に比して2.6倍と中等度群の正答率と自覚率の乖離が大きかった.次に正答率が高かった臭素は,軽度群がメントール・みかん・カレー・ばら・ひのき・ニンニク(67%),中等度群がニンニク(67%)の順であった.一方,正答率と自覚率の乖離が大きい臭素(60%以上の差)は,軽度群が墨汁・香水・靴下(67%),中等度群がみかん・カレー・ガス・ばら・靴下(67%)の順であった.
【考察】認知症の嗅覚機能の低下は,軽度認知機能障害の比較的早期の段階から始まることが指摘されている(Tabert 2005).また,この嗅覚・味覚障害は,火災事故,食欲減退,幸福感の減少等のQOL低下との関連が深いため(Miwa 2001),患者の生活機能低下に対する評価・観察を適宜行う必要がある.本研究においても軽度認知症と中等度認知症の比較において,嗅覚機能に差があることが確認された.また,嗅覚の自覚率は,その正答率よりも高く,重症化に伴いその乖離は大きくなっていた.この乖離について臨床場面を想定した場合,排泄・整容場面において認知症者が異臭に気づかない,着替えを促しても拒否する等が多々あり,これらは嗅覚機能低下の影響をうけている可能性がある.河月(2016)は,嗅覚機能が低下すると,腐った食べ物を識別する能力,ガス漏れや煙に気づく能力が低下することを指摘している. 今後は,BPSDや生活機能の低下と嗅覚障害の影響を考慮した対策と介入研究が求められる.