第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-12] ポスター:高齢期 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-12-3] 認知症を有する高齢者を対象としたグループ回想法の即時的な気分改善への影響

剱持 衣吹1, 高井 沙織1, 土屋 謙仕2, 井上 宏貴3, 田中 志子4 (1.大誠会内田病院 リハビリテーション部, 2.長野保健医療大学保健科学部, 3.(株)H&Mサービス, 4.大誠会グループ)

【はじめに・目的】現在,回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)入院患者の認知症合併率は20~50%と言われており対応が求められている(山口ら,2014).当院では, 回復期リハ病棟における認知症を有する高齢者を対象とした認知刺激介入を行っており,介入前後で即時的な気分の改善が得られる可能性があることを報告した(Kenji T, et al. 2022).しかし,非介入時との比較は行えていなかったため,コントロール課題を設定した上でも,即時的な気分の改善が図れるかを明らかにすることを本研究の目的とした.
【方法】対象者は,令和3年10月当院回復期リハ病棟に入院中で認知症と診断され,かつMMSE11点以上の者とした.本研究は,非ランダム化比較試験として設計され,介入課題は,認知刺激介入の一つであるグループ回想法を用いて,1時間程度,7名程度のグループで看護師1名,作業療法士2名により実施された.コントロール課題として実施翌日に,同時間帯・同場所での非介入時間を設けた.回想法のテーマは季節の話題を中心に実施し,農器具を使用した農作業や稲刈りの話題,羽釜を使用したお米の炊き方,家事の役割や装い,湯たんぽやこたつを使用した寒い時期の暖の取り方とした.各テーマは, 発言を受容しグループ内での相互交流を促すことと,教える役割を果たせるようにファシリテートし,失われた自信と不安の改善が得られるように実施した.評価は介入時,非介入時の前後にFace scale, Two-Dimensional Mood Scale(TDMS)の快適度,覚醒度,活性度,安定度を評価した.分析は,すべての評価項目を時間要因(前・後),介入要因(あり・なし)の2元配置分散分析を用いて,Bonferroni法にて多重比較検定を行い介入時,非介入時の変化を比較した.有意水準5%未満を有意差あり,10%未満を有意な傾向ありとした.解析ソフトはR2.8.1を使用した.なお,本研究は大誠会グループ倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】対象者は男性6名,女性7名,平均年齢87.0±8.7歳であった.Face scaleは,介入時11.2±6.2点 → 6.6±5.4点,非介入時8.4±5.5点 → 7.9±5.0点となり,有意な傾向の交互作用を認め(p<0.1),時間要因の有意な主効果(p<0.05)が見られた.TDMS(快適度)は,介入時4.3±8.7点 → 10.6±3.5点,非介入時2.8±9.5点 → 4.3±10.8点となり,有意な傾向の交互作用(p<0.1)が見られた.TDMS(活性度)は,介入時1.1±5.2点 → 4.5±3.3点,非介入時0.6±5.7点 → 0.9±6.1点となり,有意な交互作用(p<0.05),時間要因の有意な主効果(p<0.05)が見られた.また,多重比較検定において,介入群のみ前後で有意に改善し(p<0.01),セッション後に非介入群より高い値を示した(p<0.05).TDMS(安定度,覚醒度)は有意な交互作用が見られなかった.
【考察】今回の結果より,回復期リハ病棟における認知症を有する高齢者を対象としたグループ回想法は,コントロール課題と比較しても即時的な気分の改善効果が図れることが示された.TDMSの活性度はイキイキして活力がある状態と定義されており(Sakairi Y, et al. 2013),認知症を有する高齢者であっても,グループ回想法により他者との交流や会話を楽しめる可能性が示唆された.また快適度が改善傾向を示したことから,認知症を有する高齢者であっても,グループ回想法の課題中は落ち着いて過ごせる可能性が示唆された.以上より,回復期リハ病棟に入院中の認知症を有する高齢者に対しグループ回想法を実施することは,即時的な気分の改善に有益であると考えた.