第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-2] ポスター:高齢期 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-2-5] 日本の高齢患者におけるエンパワメントと生活機能との関連

坪内 善仁1, 田結荘 秋嘉2, 下村 広大2, 萬屋 京典3, 内藤 泰男4 (1.奈良学園大学保健医療学部リハビリテーション学科, 2.秋津鴻池病院リハビリテーション部, 3.星城大学リハビリテーション学部, 4.大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科)

【緒言】
 近年,高齢者医療・ケアの場面では,エンパワメントに基づく実践が重要視されるようになった.エンパワメントは「自身の能力や可能性を認識し,健康の維持・増進に向けて積極的に行動するプロセス」であり,エンパワメント支援は患者と医療従事者のコミュニケーションを強化し,主体性や自己管理の改善,社会参加の増加など,退院促進への効果が示されている.一方で,これらの報告は若年患者や特定の疾病患者を対象としており,高齢患者への適用,つまり高齢患者のエンパワメントに関連する因子や構造,支援効果は明らかになっていない.
 そこで,本研究は高齢患者のエンパワメントに関連する因子および構造について,共分散構造分析を用いて明らかにすることを目的とした.
【方法】
 対象は,2019年~2021年に回復期リハビリテーション病棟に入院した65歳以上の患者で,調査項目は基本情報で性別,教育年数,世帯構成,主介護者の続柄,経済状態,趣味・役割の有無,医学的情報で入院契機の主疾患,Charlson Comorbidity Index (CCI),血清アルブミン (Alb),作業療法評価情報でPatient Empowerment Scale - Japanese version (PES-J),Mini-Mental State Examination (MMSE),大腿四頭筋の筋力,Numerical Rating Scale (NRS),Functional Independence Measure (FIM),強度別身体活動時間であった. 
 分析では,PES-Jと各調査項目による単回帰分析を行い,有意な影響を示した項目を用いて作業療法士4名と医師1名でエンパワメント構造モデルを構築した.エンパワメント構造モデルは共分散構造分析を用いて検証し,モデル適合度の判定はComparative Fit Index (CFI),Goodness-of-Fit Index (GFI),Adjusted Goodness-of-Fit Index (AGFI),Root Mean Square Error of Approximation (RMSEA)を算出した.解析はIBM SPSS Statistics Ver.28.0, IBM SPSS Amos Ver.28.0を用い,有意水準は5%とした.なお,本研究は所属施設の研究倫理委員会の承認を得ており,対象者には個人情報保護の方法等を口頭と書面で説明し,書面による同意を得た.
【結果】
 分析対象者は151名(81.75±7.15歳),男性が54名(35.76%)であった.単回帰分析では,PES-Jに影響する項目として世帯構成(β = -0.18; p = 0.02)と役割の有無(β = 0.45; p < 0.01),PES-Jが影響する項目としてCCI(β = -0.29; p < 0.01), MMSE(β = 0.22; p < 0.01), NRS(β = -0.17; p = 0.04), Alb(β = 0.3; p < 0.01), FIM(β = 0.32; p < 0.01), 低強度身体活動時間(β = 0.45; p < 0.01), 中強度身体活動時間(β = 0.38; p < 0.01)が抽出された.また,抽出項目により構築したエンパワメント構造モデルの適合度は,CFI = 1.00,GFI = 0.97,AGFI = 0.95,RMSEA < 0.01で,説明力をもつモデルであることが示された.
【考察】
 本研究の結果から,高齢患者においてもエンパワメントが心身機能・能力や身体活動に影響することが明らかとなり,高齢患者の身体不活動の予防・改善に寄与する可能性が示された.また,日常的な会話や活動の共有,役割遂行を可能にする家族の存在は,高齢患者のエンパワメントに影響する重要な要因であると考えられた.以上のことから,高齢患者のエンパワメント支援では,退院後の役割遂行や社会参加を見据えたプログラムが重要であり,エンパワメントの促進は身体不活動の予防および,その人らしい地域生活の再開につながると考えられた.