第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-3] ポスター:高齢期 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-3-3] 意欲向上に着目した関わりにより自宅退院に繋がった事例

栗原 康太郎, 成田 雄一 (医療法人 光陽会 関東病院リハビリテーション科)

【はじめに】右大腿骨骨折,右橈骨骨折後遺症慢性を呈した90代女性への介入を通じて,の動機欲求に基づきモチベーション向上を促す関わりを行った.事例を通して高齢者への意欲向上を促す関わりと,行動変容の関係について考察し明らかにしていく.
【事例】年齢:90歳代.性別:女性.病名:右大腿骨骨折,右橈骨骨折後遺症慢性.既往歴:両変形性股関節症,両股関節人工股関節オペ.現病歴:自宅独居.X年Y月Z日にて自宅で転倒.急性期病院に緊急搬送され,右大転子部剥離骨折・右橈骨遠位端骨折にて入院.リハビリ目的にてX年Y+1月Z+15日当院に入院となる.本演題で発表する内容は,本人及び家族への説明・同意を得ている.また,当院の倫理審査の承認を得た.
【評価】身長:151.7cm.体重:40.5kg.BMI17.6㎏/m2.TP:7.5g/dl.ALB:4.3/dl.筋力:大殿筋MMT3レベル他4レベル.HDS-R30点.FIM:入院時96点.入院時:BBS48点.Vitality Index(VI):入院時7点.観察評価:入院時表情変化少なく,日中は臥床傾向にあり自発的な活動は殆ど見られなかった.「こんなに入院するつもりはなかった」との発言がある一方で「どこまで出来るか不安」と退院後の生活に不安感を感じている.
【作業療法介入】自宅退院を共有目標とし,退院後の生活に対する不安感の軽減に伴う意欲・活動性向上を目的に行った.
関わりはMcClellandの動機欲求(達成ニーズ,親和ニーズ,支配ニーズ)に基づいた意欲向上を意図した声掛けを介入開始から自宅退院まで継続的に行った.尚,McClellandはもう一つのニー ズとして回避ニーズをあげたが會田は「これは望まない結果や危険を避けるために行動する意味をさし,実際の声かけ方法としては事例の不安を増強させる可能性がある」としているため本症例においても回避ニーズは除外した.
【結果】モチベーション向上を意図した声掛けを継続しながら作業療法介入を行うことにより,表情も豊かになり,自主練習や読書,友人との電話等の活動が拡大した.屋外歩行や調理においても意欲的な発言が聞かれる様になった.上記の行動変化から意欲の評価スケールであるVIの得点も10点へ改善した.更に,家屋評価や認定調査も受け入れ,退院後の生活へ前向きな行動変容が見られた.結果として退院後のサービスや住環境も整い,FIMの得点も126点に改善した.ADL・IADLの向上に伴って自宅退院となった.
【考察】モチベーションが向上する事について會田らは「事例が直面する問題に取り組む原動力となり自己効力感を高め,良い結果を招く」と述べている.事例は,意欲向上を目的とした関わりを介入開始から継続して行った.また,機能訓練や動作練習を行う中で成功体験を積み重ねたことにより,出来る作業を事例自身が理解し,動作遂行に対する不安感などを乗り越え,自己理解が深まり活動意欲の向上,IADLの遂行などの活動が拡大したと推測される.また,退院後の生活のイメージを持つことで介護サービスや住環境整備の受け入れなど前向きな意思決定に及んだと考えられる.これらの結果から,本事例においては,意欲向上が良い結果として現れたと考察される.
【おわりに】当院においても高齢者のモチベーション低下は多く見られている.今回は意欲向上を促す関わりにより,徐々に前向きな言動が見られるようになり,活動性が向上たことで自宅退院に繋がった事例についてまとめた.入院されている高齢者の地域への早期退院が進められる昨今では,高齢者に対する関わりの重要性や関わりが心身に及ぼす影響を明らかにすることが求められると言える.その為,さらに多くの事例で意欲向上に着目した関わりがもたらす作業療法介入効果向上への有用性を示していくことが求められると考える.