第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-3] ポスター:高齢期 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-3-4] 意欲低下が顕著であった長期療養患者に対しADOCによる目標設定を実施したことで主体性が向上した事例

川端 美月1,2, 細見 智恵1 (1.逸生会大橋病院リハビリテーション科, 2.東京都立大学人間健康科学域作業療法科学域)

【はじめに】コロナ禍により家族との面会制限が設けられ,臥床が顕著となっていた症例を担当し作業選択意思決定ソフト(以下,ADOC)を用いた目標設定と介入を行った.その結果,作業を通して主体性を取り戻し作業活動の広がりの一助となった事例を経験したため以下に報告する.なお,発表に際し本人及び家族から同意を得た.
【事例紹介】70代男性,妻と二人暮らし.近隣に長男,長女,次女が住んでおりKPは妻と長女.床頭台の中には家族との写真が沢山入っており,仲の良い家族像が伺えた.X年Y月Z日左被殻出血を発症しA病院にて開頭血腫除去術,気管切開(以下,気切)を実施.転院を繰り返し,在宅療養が困難となり当院へ転院.発症から6年が経過し,現在は右片麻痺と失語が残存している.コロナ禍以前には意欲的にリクライニング車椅子へ移乗し,家族同席での活動的なリハビリが多かった.家族の面会やオンライン面会も実施困難であったことから,意欲の低下及び不動による腰痛の訴えが顕著であった.
【作業療法評価】気切のため頷きや首振り,単語レベルでの口形変化によるコミュニケーションが可能.ADOCでは【家族との交流(満足度・遂行度:1)】の項目のみを選択.その他のホープとしては「腰痛をどうにかしてほしい」との訴えが聞かれた.右上下肢は弛緩性の麻痺により自動運動不可.MMT左上下肢4,握力1kg,FIM(運動項目:13点,認知項目:15点)基本動作全介助,ベッドアップ約50度にて腰痛の訴えありフェイススケールにて4であった.
【方針】家族と関わる機会が得られなかったことから,作業活動を通して家族との繋がりを感じることができる機会を設けた.具体的には,床頭台の中にあった写真を飾るための写真立ての作成を計画した.さらに離床を進めることで作業参加を促し,腰痛の軽減を図った.
【経過】Ⅰ期<作業導入>タイルビーズを用いた写真立て作成を開始した.方法は左手指でピンセットを把持しタイルビーズをつまみ,写真立てフレームに貼り付けた.当初は作業療法士(以下,OT)の介助を要して遂行していたが,次第に作業に慣れる様子が見られた.ベッドアップ時や移乗時に疼痛の影響から苦痛表情が顕著であった.Ⅱ期<主体性の向上>自らタイルビーズの色の選択や配置の指示をされ,作業に積極的に参加するようになった.写真立てが完成した時には非常に嬉しそうな表情で,初めて歯を見せて笑う姿が見られた.リハビリ時間内に腰痛の訴えが聞かれなくなり,苦痛表情も見られなくなった.Ⅲ期<作業の広がり>「家族へのプレゼントを作りたい」という本人の意思表出を汲み取り,タイルビーズを用いて妻や娘,孫へコースターの作成を開始した.この頃から問いかけに対する返答だけでなく,家族や仕事に関する話題に関して自発的な表出が見られるようになった.妻が来院した際にOTがA氏の作成した作品や作業中の写真を見せると非常に喜んでいた.A氏にも妻との会話や写真を見せると笑顔が見られた.
【結果】ADOCでは【家族との交流(満足度:4, 遂行度:4)】,握力3kgへ向上,FIM(運動項目13点,認知項目18点)「表出」の項目において変化が認められた.介入中の腰痛の訴えはほぼなく,フェイススケール1となった.
【考察】環境変化によりA氏はリハビリに対して動機付けや明確な目的がないまま取り組んでおり腰痛による拒否が目立つようになっていた.今回,作業を手段として用いることで家族とのつながりを感じられる機会を設け,内発的な動機づけが加わったことから,リハビリに対して意欲的になった可能性がある.さらに成功体験が主体性を引き出し,作業の広がりを生んだことが考えられる.