第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-4] ポスター:高齢期 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-4-3] 活動意欲の低下した寝たきり高齢女性に対する主体性に焦点を当てた介入

木下 梓織1, 木下 輝2 (1.社会福祉法人牛久博愛会 フロンティア牛久リハ地域連携室, 2.専門学校 社会医学技術学院作業療法学科)

【はじめに】特別養護老人ホーム(以下特養)は,入所者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようにすることを目指すものとされている.坪井らは,自立度を低下させない有用な手段として,日々の活動範囲を広げ主体的活動を継続的に支援する事と示している.
 とろこで,厚生労働省の調査によると,自宅同様に自由な生活ができると感じている特養入所者の割合は半数以下であり,ニーズに合わせた生活の支援が十分に行えていない可能性が示唆されている.また,作業療法白書によると,特養に配属されている作業療法士(以下OTR)は全会員数の1割程度にしかなく,OTRが携わったうえでの支援を行えているとは言い難い現状がある.
本報告では,活動意欲の低下した寝たきり女性に対し,興味や自発性を重視した支援を他職種と共に実施した事で,自立度や活動範囲が拡大した事例報告を通して,特養におけるOTRの役割について考察する.なお,発表に際し家族へ説明を行い,口頭にて同意を得た.
【事例紹介】事例は,デイサービスを利用しながら独居生活を送っていた80代後半の女性である.自宅では伝い歩行を行い簡単な家事を行っていた.1年前に慢性心不全により入院し,退院後間もなく自宅で転倒し右大腿骨頸部骨折を呈し再入院となった.心身機能の低下から,退院と同時に車いす全介助の設定で当施設へ入所となった.
【経過】入所当初,自発的な行動や発話はほとんど無く,離床へも拒否がみられた.しかし,作業療法の面接では「トイレに行きたい」と希望聞かれ,基本動作の評価では,見守り下の立位保持や5m程度の歩行器歩行も可能と判断された.また,A氏が希望するタイミングでの誘導には拒否がない事が分かった.そのため,A氏の希望に寄り添った活動機会を増やす事を他職種と共有し,おむつではなくトイレで排泄できる事,歩行器を使用した歩行が定着できる事を目標とした.OTRは,介護職への介助指導や環境設定を中心に介入した.その結果,1か月後には,自らフロア内を散歩する様子がみられるようになった.そこで,更なる離床機会拡大を目指し,余暇や役割活動を検討した.興味関心チェックリストと意思質問紙による興味や意欲の評価を行った結果,過去には主婦としての役割を担いながら他者交流も含んだアクティブな活動を楽しまれていた事が分かり,集団レクでは先頭に立ち,場を楽しませる様子がみられた.そのため,掃除や洗濯畳などの意欲が促される活動を介護職の協力のもと実施し,集団活動では踊りを披露する等の盛り上げ役の依頼を行った.その結果,家事動作は日々の日課として習慣化され,他者交流の場へ積極的に参加する等,主体的な生活を送る事が可能となった.また,心身機能面では,歩行能力は歩行器歩行近位見守りから遠位見守りレベルとなり,認知機能評価であるCDRは3点から2点,NMスケールは8点から29点と変化がみられ,生活面でも,FIMが58点から73点と向上した.
【考察】宇佐美らは特養におけるOTRの役割として,入居者の状況を適切に評価し,介護職と連携し活動参加の状態を高められる生活習慣を支援する事と示している.本事例においても,他職種と連携し段階に応じた支援を生活へ落とし込めたことが,生活範囲の拡大に繋がった可能性がある.以上より,主体的生活や自立支援が求められる特養において,心身機能から活動参加に至る幅広い評価を行い利用者の可能性を明確にする力,介護職を始め他職種と良好な関係を築き連携する力,評価結果を生活レベルに落とし込み習慣化させるマネジメントする力がOTRには求められると考えられる.