第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-5] ポスター:高齢期 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-5-1] 入院生活での楽しみを見出し他者交流の再開に繋がった事例

神谷 美樹1, 長谷川 明嶺1,2, 木村 侑里南1, 丸山 祥1,3 (1.湘南慶育病院リハビリテーション部, 2.東京都立大学大学院, 3.東京都立大学)

【はじめに】
今回,脳梗塞を呈した事例に対して色カルタを用いた集団活動を提供した.事例が大切にしていた他者交流が入院環境によって制限されていたが,色カルタを用いた集団活動により,ピアサポートの関係性を構築し入院生活での楽しみを見出すことが可能となったためここに報告する.本報告にあたり,事例から口頭で同意を得ている.
【事例紹介】
70代男性.団地の5階に奥様と二人暮らし.娘は近所に住んでいる.事例は病前,同じ団地の方とラジオ体操やグラウンドゴルフをおこなっており,他者との交流も大切にされていた.今回,脳梗塞を発症し,13病日目に当院回復期リハビリテーション病棟に転院した.日常生活活動では,食事摂取量が不安定であること,バイタル変動があることにより,リハビリ時間外はベッド上で,一人で受身的に過ごすことが多かった.セルフケアにはセッティング介助〜軽介助が必要で,易疲労性あり介助に依存的であった.車椅子介助で移動していた.Mini-Mental State Examination(以下,MMSE)は14/30点,機能的自立度評価法(以下,FIM)の運動項目25/91点,認知項目14/35点であった.人間作業モデルスクリーニングツール(以下,MOHOST)では「環境」が7点と最も低い状況であった.そこで,他者交流は今後も継続していただきたいと考え,馴染みがあり安心できる関係を構築できると報告されている色カルタを導入した.
【方法】
色カルタを用いた集団活動は,通常の作業療法プログラム(週7回1回60分)のうち,週1回8週間,計8回実施した.1グループの人数は3〜4名,実施時間は30〜40分程度とした.グループ構成では,初回は同性患者同士とし,配慮を行った.色カルタのリーダーはOTRとした.色カルタを用いた集団活動では,主に患者同士の関わりとし,OTRは主に話題の転換を支援した.色カルタ実施前後の成果指標としては,MMSE,FIMの認知項目,MOHOST,意志質問紙様式(以下,VQ)を用いた.
【結果】
事例は色カルタによる他者交流の場を経験することで,「色カルタを楽しみにたくさん食べるぞ」「階段練習は疲れるから嫌だったけどやろうか」と発言し,能動的な様子が認められた.また,訪室時に色カルタの実施曜日であることを伝えると,「今日は色カルタか」と活気良く起き上がるようになった.色カルタに参加している他患と病棟で遭遇すると積極的に話しかけ,今後の不安を他患へ話すようになった.さらに,色カルタだけでなく麻雀にも参加し,作業形態の異なる環境での他者との繋がりも確立した.これらに参加するとわかると「待ちに待ってたよ」「こういうの好きなんだよね」と楽しいという肯定的な感情が表出した.色カルタの場面では,難聴の他患が参加すると配慮した行動をし,参加したことのない他患を自ら誘う場面もあった.日常生活活動では,病棟内杖歩行見守りとなり,セルフケアはセッティング介助にて可能となった.MMSEでは13点,FIMの認知項目では10点の向上が見られ,MOHOSTでは「作業への動機付け」「処理技能」「環境」が向上,特に「環境」では全ての下位項目で変化し8点の向上が認められた.
【考察】
今回,入院により他者交流が制限されていた事例に対して,色カルタを用いて集団活動を提供した.事例の変化より,色カルタを用いた集団活動は,他者交流が制限されている入院という環境でのピアサポートの関係性を構築するだけでなく,楽しいという肯定的な感情を見出すことが可能となることが示唆された.