第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-6] ポスター:高齢期 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-6-4] 地域在住中・高齢者におけるセルフレジ・キャッシュレス決済の利用実態

池田 由里子1, 下木原 俊2, 田平 隆行1 (1.鹿児島大学 医学部保健学科, 2.鹿児島大学大学院 保健学研究科博士後期課程)

【序論】近年,日常生活のデジタル化が加速している.身近にはスーパーマーケットなどでセルフレジが導入され,キャッシュレス決済も急増している.店舗側は業務簡略化・効率化,来客側は利便性向上や現金以外の決済方法による衛生面向上などが図れる.しかし,デジタルツールに慣れない高齢者にとっては対応に苦慮することが想像される.そこで本研究では地域在住中・高齢者のセルフレジやキャッシュレス決済の利用について新たなニーズの抽出やより具体的なサービスの提言につなげる基礎資料とすることを目的に実態調査を実施した.
【方法】2022年11月にコープかごしまの50歳以上の組合員3,000名に調査用紙を送付し,1,189名より回答を得た(回収率39.6%).研究に同意しない者,回答に不備のあった者を除外し1,112名を分析対象とした.調査内容は基本情報(年齢,性別,教育歴,同居形態,視聴覚機能),主観的認知機能低下(SCC),生活行為工程分析表「金銭管理」,セルフレジ(セミ/フルセルフレジ)の利用状況,セルフレジを使用する/使用しない理由,キャッシュレス決済(クレジットカード,電子マネー,QRコード/バーコード決済)の利用状況,キャッシュレス決済を利用しない理由について回答を求めた.結果は単純集計し年代別の特徴を示した.統計にはR ver.4.2.2を用いた.本研究は鹿児島大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】対象者数の年代別内訳は50代267人,60代393人,70代336人,80歳以降116人であり,全世代で8割以上が女性であった.加齢に伴い独居,聴覚障害の割合,SCCを訴える数が増加し,金銭管理の自立度は低下した.セミセルフレジの利用は50代87%,60代84%,70代73%,80歳以降55%であった.一方でフルセルフレジは50代63%,60代49%,70代35%,80歳以降18%とセミセルフレジに比べ利用する割合が減少した.セルフレジを利用する理由は全年代で「並ぶ時間の短縮」「操作が難しくない」が共通して多かった.セルフレジを使用しない理由は全世代で「対面レジへの安心感」が多く,続いて50代・60代は「面倒そう」,70代・80歳以降は「使い方がわからない」が挙げられた.キャッシュレス決済は加齢に伴い利用割合は低下し,50代はクレジットカード58%,電子マネー69%,QRコード/バーコード決済は48%である一方,80歳以降ではクレジットカード・電子マネー19%,QRコード/バーコード決済3%であった.利用しない理由は全世代で「現金で不自由しない」が最も多く,続いて50代・60代は「セキュリティが心配」,70代・80歳以降は「クレジットカードを持っていない」であった.
【考察】高齢者の買い物ではセルフレジの操作や電子マネーのチャージ方法に難しさがある(吉田ら,2022).インターネットやスマートフォンへアクセスしにくい高齢者はキャッシュレス決済の利用が制限される可能性がある(Golub A, et al, 2022).本研究では,セミセルフレジは比較的利用されているがフルセルフレジの利用が進んでいないことが明らかとなった.特に70歳以降は操作方法が複雑となるフルセルフレジではなく安心感のある対面レジやセミセルフレジを選んでいる傾向が示された.また,キャッシュレス決済よりも現金を利用している現状も示唆された.特にQRコード/バーコード決済の利用は少なく,スマートフォンやアプリの習熟度が背景にある可能性が考えられる.セルフレジは使用方法の提示の工夫,キャッシュレス決済はスマートフォン活用についての支援も重要であると考える.