第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-9] ポスター:高齢期 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-9-2] 高齢者施設において介護職員との協業がもたらす作業療法の効果

日高 茉実1, 井口 知也2, 渡部 雄太2 (1.介護老人保健施設 さくらの丘, 2.大阪保健医療大学)

【序論と目的】介護老人保健施設(以下,老健)における作業療法士(以下,OTR)は,活動と参加を援助し,人の主体性を維持する支援をおこなっている(土井,2016).しかし,老健で生活するクライアント(以下,CL)の活動と参加は,CL自身の能力や環境などの要因により制限されていることが多い.そこで, 生活を支援する中心的な存在である介護職員(以下,CW)と連携し,CLの能力が最大限に発揮される環境調整などを行うことで活動と参加を支援した.本報告では,CWと協業で得られる作業療法(以下,OT)の効果を検討することを目的とした.なお,本人と家族,施設長に報告の同意を得ている.
【事例情報】Aさんは80歳代の女性で要介護度は5である.趣味は園芸で,家族と農業を営んでいた. X-32年にうつ症状が出現し,老年期精神病の診断を受けた.入所前はデイサービスを利用し,娘家族と同居していたが,介助への依存心が強く,寝たきりになった.家族の介護負担を軽減するためにX-9年に入所し,月に1度は在宅復帰している.
【OT評価と計画】HDS-Rは25/30点で,認知症の診断はないが老年期精神病の影響で気分の変動が大きい.人間作業モデルスクリーニングツール(以下,MOHOST)は36/96点で,環境のスコア低下が作業の動機づけ,作業のパターンに悪影響を及ぼしていた.FIMは44/126点で,介助依存が強い.Aさんは,臥床を希望する訴えが頻回で,他者と口論になるため,食事以外の時間は臥床していた.職員には「対応困難な利用者」という印象があった.Aさんは「部屋に居たいけど,一人で寂しい」などの語りがあった.OTでは,1回20分程度で,週2回の園芸活動と週1回の機能訓練を行うが,それだけの関わりでは生活に変化を与えることができなかった.そこで CWと連携して環境調整を行い,生活習慣の再構築と,フロアでの活動と参加を促すことを目標とした.
【経過と結果】第1期:CWとケア方針の見直しを行った.他者トラブルを避けるため,食事以外の時間は臥床対応であったが, 午前は離床を促し,午後から1,2時間程度の臥床時間を設けることとして,CW全員と共有した.また,「対応困難な利用者」という印象からCWとAさんは必要最低限の関わりしかなかったことから,Aさんに関心を向けてもらうために,情報共有ノートを作成した.Aさんには,今後も在宅復帰を継続するには,離床時間を増やす必要があることを伝え,午前中はリハとCWが行なうレクリエーション(以下,レク)への参加を促すことで離床時間を確保した.第2期:午前中にフロアで過ごす時間が増えたことで,Aさんは手芸をしたいと自ら希望した.そこで,OTRがAさんの身体能力に応じた活動である毛糸を用いたポンポンリースをAさんとCWに提案した.その中で,他の入居者との交流が持てるような座席配置を依頼した. Aさんは他の利用者と毛糸が絡まないように協力したり,「完成したら娘に見せたい」と語った.その後のAさんの生活は,午前中はリハやレクに参加し,午後からは手芸や臥床をして過ごすようになった.また,フロアではCWがこまめに声かけを行ったことで,臥床や孤独感の訴えは減少した.日によってADL能力に変動はあるが,FIMは55/126点と10点の改善を認め,「自分でやらないとあかん」と,協力動作が増えた.HDS-Rは25/30点と変化はなかったが,MOHOSTは53/96点で,作業への動機づけや作業のパターン,環境が改善し,社会交流の機会が増えた.
【考察】CWと協業することで,CL自身が持っている能力を最大限引き出す機会を設けることができ,OT以外の時間でもその効果が継続できることから,人の主体性に沿った活動と参加が促進されたと考えられる.