第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-11] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-11-5] 施設で暮らす前頭側頭型認知症者のBPSDの改善に向けた訪問作業療法実践

杉山 瞬1, 猪瀬 慎太郎2, 中里 和也3, 村中 蓮1 (1.一般社団法人 療養生活支援協議会 訪問看護ステーションあかり, 2.株式会社あざみ野ヒルトップ, 3.株式会社ワン・ライフ ワン・ライフ訪問看護ステーション)

【はじめに】
住宅型有料老人ホームに入居している前頭側頭型認知症(以下FTD)の事例を担当した.FTDの特徴的な精神症状や行動異常に対する施設スタッフの介護負担は大きく,また対応方法が周辺症状(以下BPSD)を増悪させている可能性があった.今回,事例の施設生活上の問題点が集約されている食事場面の支援をすることで,事例自身のBPSDの改善と施設スタッフの介護負担の軽減を認めたため報告する.尚,本報告に対して家族の同意を口頭と書面で得ている.開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【目的】
FTDの症状を多面的に評価し,残存機能を活かした対応方法を施設スタッフと共有することで,事例のBPSDの改善と施設スタッフの介護負担の軽減に繋がるかを検討すること.
【事例紹介】
女性,60歳代前半.弁当屋で勤務中に煙草を吸いに抜け出すようになり,注意されても平然としている状況だった.X-5年,FTDと診断されグループホームに入所となる.その後,X年に実母が入居している住宅型有料老人ホームに入居となる.X年4月,主治医より訪問依頼を受ける.
【OT評価】
BPSD25Qの重症度50点,負担度50点,GAF30点,NMスケール7点,N-ADL29点,FIM58点.ADLの各動作自体は可能も,認知機能は著しく低下し,声かけと誘導が無ければ行動できない.歩行は自立.発話量の減少,意味理解の低下があるが,声かけに頷きがあり,一見理解しているかのような取り繕いがみられた.文字の理解はある程度保たれていた.一日を通して徘徊や立ち去り行動が頻回にみられ,その度に施設スタッフは言語的誘導と,事例の手を引き連れ戻す誘導介助をしていた.制止させられると大声を出すなど感情を爆発させることが多かった.特に食事場面は他入居者からの影響を受けやすく,注意の転導性の亢進が著明で,施設スタッフの介護負担は大きかった.
【訪問OTでの支援内容】
食事場面の課題とその背景にある疾患特性との関係性を整理すると,その他の生活場面での課題と共通点が多かった.そのため食事時間に合わせて訪問をし,事例の残存能力を活かした対応方法を検討し,施設スタッフが取り入れることができるよう以下の支援をした.1)言語的ではなく視覚的誘導(指差し,貼り紙)を優先する.2)食席から立ち上がった際に水やおしぼりを手渡すことで,注意喚起を促す.それでも立ち去り行動がみられた際は無理に引き止めず,食堂に再度戻るのを遠位で見守る.
【結果】
BPSD25Qの重症度44点,負担度43点(易怒性,大声の項目)に改善した.施設スタッフは食事場面以外でも,徘徊時に無理に制止せず,状況に応じて視覚的誘導で対応した.食事中の立ち去り行動はあるものの,短時間で着席できることも増えた.施設スタッフからは「興奮することが減り,対応が楽になった」,「徘徊時は付き添わないといけないと思っていた」という声が聞かれ,介護負担の軽減に繋がった.
【考察】
1)限られたサービス時間内で支援するために各問題点の関係性を理解し,問題点が集約されていた食事場面の支援をしたこと,2)疾患特性を考慮したOT評価に基づいた事例への対応方法を施設スタッフと共有できたことが,事例のBPSDの改善と施設スタッフの介護負担の軽減に繋がったと考える.