第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-2] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PK-2-4] 語りから意味のある作業を引き出しBPSDが改善した事例

角田 恵美, 中村 哲也 (1)医療法人社団 玉栄会 東京天使病院リハビリテーション科)

【はじめに】今回,回復期リハビリテーション病棟(以下,回リハ病棟)に脳梗塞で入院し既往に認知症を抱える患者に対して,生活史の語りを基に押し花を実施した結果,認知症周辺症状(以下BPSD)が改善した為,以下に報告する.なお本報告は,事例とリハビリテーション科責任者に同意を得ている.
【事例紹介】A氏,70歳代の女性.第一印象は,礼節が保たれ,女性らしい所作に笑顔があり気品高い雰囲気であった.入院前は,独居生活をしていたが3か月前より転倒を繰り返し娘と同じマンションに転居した.ADLは自立していたが買い物や料理などは娘が中心に行っていた.自宅内で転倒後,左肋骨骨折,横紋筋融解症にて当院入院中6日目に左上下肢麻痺が出現しX年Y月Z日脳梗塞を(右被殻~放線冠)発症し,Z+4日後に回リハ病棟に転棟となった.
【作業療法評価】BRS:Ⅱ-Ⅱ-Ⅳ,FMA:13/66点であり重度上肢麻痺を認め,MMSE:21/30点で,何度も場所を尋ねるなど,失見当識が疑われた.BPSDはDBD13:16/52点,NPI-NH:21/120点であり行動,精神症状ともに認められた.日中は臥床している時間が多く周囲の物事へ関心を示さないなど自発性の低下が主たる行動症状であり,精神症状では,夜間は「小さいおじさんがいる」「娘を呼んで下さい」「病気になった」など,幻視や不安感,抑うつ症状が主たる精神症状であった.また,夜間時に稀に帰宅願望が聞かれた.ADLはFIM:36/126点,移乗時など見守りを要しセンサー対応していた.
【介入経過】初期では,麻痺側の日常参加を目標とした.訓練直後は麻痺の回復に実感があるも,翌日に記憶を持ち越せず「できない,手が上がらないの」と自己肯定感が低く,麻痺側の参加は得られなかった.介入の中で趣味が散歩や花と聴取し,「小さい頃に友達と花冠を作ったの,懐かしいわね」「花は部屋に飾っていたわ」と語りがあった.翌日にも同じ話を繰り返し,花に触れ笑顔になった.その様子から,過去のエピソード記憶は保たれ,花に関する積極的な興味が伺えた.A氏にとって生活に馴染みのある花を取り入れた活動により,不安,抑うつ症状が軽減されると考え,押し花づくりを導入した.[初期]押し花を見て「私がやったの?」と忘れていたが,徐々に「押せているかしら?思ったより綺麗ね」と花を観て思い出すことが増えた.[中期]OTRを見て「押し花やるの?あなたも好きなのね」と記憶の定着が図られてきた.作品の完成時には「我ながら素敵でしょう」と居室に飾った.[後期]2作品目の完成時には,タイトルを考えており,記した.また,片手での編み物,ブレスレット作成に興味を示して取り組んだ.完成時には「娘にブレスレットをあげたい」と話し,プレゼントした.
【結果】BRS:Ⅳ-Ⅳ-Ⅳ,FMA:40/66点で,上肢は軽度麻痺に改善し,整容動作では麻痺側の参加がみられた.MMSE:27/30点に改善し見当識が高まった.BPSDはDBD13:9/52点,NPI-NH:7/120点と行動,精神症状ともに改善した.「退院したら犬の散歩に行けない,娘に頼まないとね」などと今後の生活への不安はあるが,抑うつ症状,帰宅願望は消失した.幻視は残存するが,良眠時間が拡大した.ADLはFIM:82/126点となり整容動作が自立となった.
【まとめ】岡本(2016)は「意味のある作業」を行うことにより,認知機能やADL能力の向上,BPSDの減少など生活機能全般の向上につながるとされている.A氏は自己肯定感の低下から受容的な生活となり,BPSDが出現していた.押し花づくりを行う際に,OT介入により成功体験を積み重ねるよう働きかけた.今回の事例を通じて意味ある作業を用いた活動はBPSDを改善させる効果があると示唆された.