第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PK-4-1] 上肢への機能的電気刺激とVirtual reality課題が空間性注意機能にあたえる影響

吉弘 奈央1,2, 網本 和2, 尾崎 新平2,3, 田邉 淳平2,4 (1.関西医療大学保健医療学部 作業療法学科, 2.東京都立大学大学院人間健康科学研究科, 3.関西電力病院リハビリテーション部, 4.広島都市学園大学健康科学部リハビリテーション学科)

<背景>半側空間無視(USN)に対する介入として,機能的電気刺激(FES)による上肢の非随意的な運動が報告されている.先行研究では,FESによる左上肢の非随意運動と視覚走査課題を併用した結果,視覚走査課題におけるUSN症状が改善したことが報告されている.一方,USNに対してVirtual Reality(VR)を用いた介入も注目されてきており,疑似的に没入感の高い空間を作り出すことができる.そこで本研究では,FESによる上肢運動とVR上での空間性注意課題を使用し,USNの評価としても用いられるPosner課題上での健常者における空間性注意への影響を検討した.
<方法>対象は,右利きの健常成人28名である.FES装置にはIVES+(オージー技研社製)を使用し,左手関節伸筋群に刺激電極を貼付した.周波数40Hz,パルス幅50μsec,筋収縮が得られる強度で,通電・休止時間を各5秒間に設定した.Posner課題は,パソコン画面上の左右に出現するターゲットに対してキーを押して反応時間[ms]を評価する方法である.反応キーを押す指はすべての対象者で右手示指とした.VRには,Oculus quest 2(Facebook Technologies)を使用し,課題はランダムに出現する風船に視線を向けて割るものであった.1回の課題につき風船探索を全48回試行した.測定プロトコルは,Posner課題6分,刺激5分,Posner課題6分を1セットとした.刺激については,(a)VR課題実施時にFESを同時に実施,(b) VR課題のみを実施(Shamコントロール),(c)FESのみの3条件で,対象者をランダムに振り分けた.統計解析は,各ターゲット提示空間(右・左)におけるPosner課題の刺激前後における反応時間変化率について,一元配置分散分析を用いて検討した.有意水準は5%とした.本研究は東京都立大学研究倫理委員会(承認番号:21091)の承認を得て実施した.
<結果>Posner課題におけるVRとFESの影響について,ターゲットが左空間に提示される場合の反応時間変化率は(a)VRとFESを併用した際に3.6%短縮,(b)VR課題のみの際に0.5%短縮,(c)FESのみの際に0.9 %短縮と有意な差は認められなかった.一方で,ターゲットが右空間に提示される場合には,(a)VRとFES併用で5.3%短縮,(b)VR課題のみで1.8%短縮,(c)FESのみで0.4%短縮となり,有意差は認められないものの,刺激によって反応時間が異なる傾向を示した(p=0.08).
<考察>VRによる注意課題と左側へのFESによる刺激を併用することにより,左側への注意を向上することが期待されたが,結果として右空間の注意をわずかに向上させる傾向が認められた.健常者では左右空間に等しく注意を向けると右半球での活動が大きく,正常な状態では左側へのわずかな注意の偏りがあることが報告されている(Gitelman et al., 1999; Jewell & McCourt, 2000).これは,左半球は右空間への注意の分配を行って右方向に注意をシフトさせるが,右半球は左右両側空間での注意分配を行い,左側へやや強いが左右どちらにも注意をシフトさせるという仮説から考えられている.本研究の対象者も健常者であったため,もともとの左側への注意の偏りから,刺激の影響が得られにくかったのではないかと考える.また,本研究で用いたPosner課題は突然出現する刺激に反応する受動的注意を必要とする課題である.先行研究では自ら探索する能動的注意を必要とする視覚探索課題をFESと併用した際に,探索時間の短縮を認めていたことから,FESによる感覚刺激入力は,刺激に誘発される受動的注意には影響を及ぼしにくい可能性を示唆した.