第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-6] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PK-6-5] 高次脳機能障害者に対する効果的な就労支援

濱田 直斗1, 高橋 萌子1, 吉田 愛弓1, 近藤 啓太1, 中村 径雄2 (1.広島県立障害者リハビリテーションセンター機能回復訓練部, 2.瀬戸内市立瀬戸内市民病院リハビリテーション科)

【はじめに】当センターでは作業療法士(以下,OT)が復職・新規就労を目指す高次脳機能障害者を対象に模擬就労グループ訓練(以下,グループ訓練)を行ってきた.本研究では,グループ訓練に参加した高次脳機能障害者の就労状況,業種の種類,仕事での困りごとを調査し,今後行うグループ訓練について検討した.
【対象と方法】対象は2018年~2021年の3年間に当センターにて新規就労及び復職を目的にグループ訓練に参加した高次脳機能障害者37名(男性35名,女性2名)で,明らかな身体障害・失語症を認めない者とした.平均年齢は45.5±9.9歳,疾患別内訳は外傷性脳損傷12名,脳梗塞10名,脳出血6名,くも膜下出血3名,その他6名であった.グループ訓練への平均参加期間は3.8か月であった.日本版ウェクスラー知能検査WAIS-ⅢはFIQ86.9±15.7,VIQ87.7±16.2,PIQ88.2±16.4であり,対象者の各知能指数は健常者平均の下限から平均の範囲内に収まっていた.自己記入式のアンケートを用いて回答を得た.多選択肢については単純集計を行い,記述的データに関しては,得られたデータをKJ法に準じてまとめた.本研究は当センターの倫理委員会の承認を得て行った.
【結果】アンケート回答のあった28名のうち,業務内容を厚生労働省編職業分類表に基づき分類したところ,「運搬・清掃・包装等」が10名,「生産工程」6名,「事務的職業」4名,「専門的・技術的職業,販売,保安農林漁業」は各2名,「保安の職業」1名であった.就労状況は就労中27名,無職1名であった.就労中27名の内訳は新規就労14名,復職13名であった.雇用形態は正社員13名,パート4名,就労継続A型3名,B型5名,その他2名であった.
仕事の困りごとは51ラベルが抽出され,「自己調整力の弱さ」「高次脳機能障害が原因となる困難さ」「対人コミュニケーションで起こる困難さ」「その他」の4つの大グループに分類された.必要だと感じた支援は,32ラベルが抽出され,「業務内容」「環境調整・代償手段」「コミュニケーション」「目標の共有・振り返り」「その他」の5つの大グループに分類された.
【考察】業務内容について,「運搬・清掃・包装業」や「生産工程」の業務に多く従事していた点から,曖昧な業務内容より決まりきった業務に合致しやすいと推察される.
仕事の困りごとでは「自己調整力の弱さ」を多く挙げられていた.これは高次脳機能障害により疲労が自覚できない場合が多いため,安定して業務遂行できる環境,適切な業務量,業務ベース等の客観的評価が必要であると考えられる.「高次脳機能障害が原因となる困難さ」については,代償手段の活用について支援を求めるといった回答が多かった.個々の特性に応じた作業場面で実際に役立つ代償方法を提案することに加え,必要な支援や環境を職場へ情報提供し支援体制を整えることで,より安定した就労につながりやすいと思われる.「コミュニケーションの困難さ」では,感情コントロールの困難さや報告・連絡・相談での失敗が挙げられた.
必要だと感じた支援では,代償手段の活用練習や能力に見合った模擬作業の体験を求めていることが分かった.またグループ訓練参加の目的を明確化すること,短期間で達成できる目標を設定し共有したいという希望が聞かれた.模擬就労グループにおいても目的や内容について説明し,目標についてはスモールステップの達成ができる目標設定が必要であることが示唆された.
以上から,今後のグループ訓練を行うにあたり,①疲労を自覚して業務量を調整する②対象者に合った代償方法を習得する③感情をコントロールしながら意思疎通を図る練習が必要であると考える.