第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-9] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-9-4] 転倒を繰り返す要因と遂行機能における衝動性との関係

青山 雄樹, 松田 総一郎, 林田 佳子, 石橋 ゆりえ, 奥埜 博之 (医療法人孟仁会 摂南総合病院 リハビリテーション科)

【はじめに・目的】
高齢者の繰り返す転倒に認知機能の低下の影響があるといわれている.一方で,遂行機能の低下は,明らかな認知機能障害のない高齢者でも転倒のリスクを高めるとされており,行動を計画する能力が低下すると考えられる.臨床場面では,計画機能の指標としてZOO MAP TEST(ZMT)が用いられており,その1では動物園地図の指定された場所を訪れる順序を事前に計画する行動計画と実行機能が求められ,その2では事前に与えられた具体的な規則に従って指定された場所に訪れる実行機能のみが要求される.この2施行の差は,行動計画の有無であり,熟慮的に思考することが困難な者は開始までの行動計画の時間が短縮されると考える.そこで,我々は熟慮的に行動する者よりも衝動的に行動する者の方が転倒を繰り返し,ZMTその1とその2の開始時間(行動計画の時間)の差が短くなるのではないかと仮説を立てた.本研究の目的は,転倒を繰り返す要因と遂行機能における衝動性との関係を明らかにすることとした.
【方法】
対象は2022年9月~2023年2月に当院に入院した高齢者25名(男性:4名,女性:21名,平均年齢:80.3±4.1歳).移動は独歩もしくは杖で自立していたMini-Mental State Examination20点以上の者を対象とした.転倒歴は口頭にて頻度,状況を聴取し,過去3年以内に転倒歴1回以内の者を非転倒群(男性:2名,女性9名,平均年齢:80.0±2.3歳),2回以上の者を再発性転倒群(男性2名,女性12名,平均年齢:80.5±5.1歳)と分類し,ZMTによる測定を実施した.ZMTは,その1,その2ともに課題の説明を行い終えた時間から,被験者がペンを把持し線を引きはじめた時間を行動計画の時間とした.その1及びその2の各行動計画の時間と,その1とその2の行動計画の時間の差を算出した.分析方法はノンパラメトリック法のMann-Whitney-U検定を用いて,再発性転倒群と非転倒群の行動計画に対する思考時間の関与の検定を行った.「再発性転倒群のZMTその1とその2の行動計画の時間の差」と「非転倒群のZMTその1とその2の行動計画の時間の差」の2群間の統計的に有意な差があるかについて比較した.統計学的有意水準は5%未満(p<0.05)とした.なお,本研究はヘルシンキ宣言に従い倫理と個人情報に配慮し,口頭での説明と書面にて同意を得て実施した.
【結果】
分析の結果,再発性転倒群と非転倒群のZMTその1の行動計画の時間では有意な差は認めず,その2においても再発性転倒群と非転倒群では行動計画の時間に有意な差は認められなかった.一方,再発性転倒群のZMTその1とその2の行動計画の時間の差が少なく,非転倒群のZMTその1とその2の行動計画の時間の差との有意な差を認めた.
【考察】
Garciaらは,行動計画を立てるために要す時間が短い際は,衝動的に一連の行動を始めることが予見され最終的な目標に到達する可能性も低くなるとしている.非転倒群と比較すると再発性転倒群でその1とその2の行動計画の時間の差が有意に短かったことから,最適な行動計画を熟考せず,衝動的な行動の選択になっていると推測された.このことから,再発性の転倒には身体機能の低下のみならず遂行機能低下の影響をうけている可能性が示唆された.今後は,衝動性をコントロールする視点での病態解釈と介入指針の立案が再発性転倒の予防につながるのかを検証していきたい.