第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-9] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-9-5] 習慣や趣味で症状が改善した脳血管性認知症の1例

新井 祥憲 (江東リハビリテーション病院リハビリテーション科)

【序論】認知症に対してのリハビリテーション(以下リハ) は, ユマニチュードや回想法などの具体的な内容が見受けられるにもかかわらず,その介入による有用性の報告は少ない.しかし,金山らは回復期リハ病棟において認知症の重症度は在宅復帰の可能性を大きく左右することを示唆している.
【目的】脳血管性認知症を呈した症例の周辺症状がリハにより改善された後,趣味を活かしたイベント作りと習慣化を図ったリハを行った結果,症例に脳機能の改善が見られたため,報告する.なお,本報告に当たり対象者には口頭及び書面によるインフォームドコンセントを得た.
【症例】敗血症ショックと外傷性くも膜下出血・右頭頂葉脳挫傷を受傷後,30日後にCOVID-19罹患.受傷後62日後に回復期リハビリテーション病棟に転院.入院時より運動麻痺等の身体機能の低下は見られず,見当識,認知機能,注意機能を中心とした高次脳機能低下が認められた.MMSEは14点.料理人の職歴あり.病前は知人夫婦宅で3人で生活し,家事は趣味でもある料理を担当していた.長年の大量飲酒歴あり.病棟生活では入院時より状況理解が乏しく,家に帰ろうとするのを看護師が止めると怒る様子が見られた. 貴重品入れの鍵の紛失が多く, 盗難を不安がる様子が見られた.
【方法】始めに,周辺症状とみられる上記症状に対して,介入ごとに入院中であることとその理由を伝えた. また, 自己紹介を何度も繰り返し,ラポールの形成と状況理解を図った. 加えて, 鍵の保管を必ず右の手首に決め, 明文化して病室に張り,鍵を探している様子が見られた際の手掛かりとした.
次に,脳血管性認知症が疑われたため, 注意機能障害の影響も考慮して介入した. 内容は大きく2つに分けた.
1つ目に,注意機能を要する存在想起を含む展望記憶に焦点をあてた.課題として,リハ開始時に終了時間をセラピストに自発的に聞く事,リハ内容を終了後に書くこと,当日の昼ご飯をチェックし,尋ねられた際に答えるなど,様々な思い出すべきタイミングを設定した.
2つ目に,見当識に焦点をあて,曜日を固定した調理訓練を退院前まで週に1度,5週連続で行った. また,調理訓練を基準に常に曜日を把握するよう教示した. また, 買い物訓練を複数回行い,注意機能の評価・向上を図った.
【結果】週に何度も見られていた離棟しようとする行動は,入院41日目から退院までの 16 日間見られなかった. 鍵を始めとする捜索は,本人自らが置き場所を設定しており,捜索時間と回数の減少がみられた. リハの結果としては,存在想起を必要とする課題については獲得出来なかったが, 内容想起に関する課題に関しては概ね達成された. また,曜日固定のイベント設定により,曜日に加えて日にちなどの見当識の正答が得られるようになった. MMSE は 29点に向上するなど認知機能の向上が見られた.
長年の調理師経験を活かし成功体験を得易い作業としてアセスメントした周期的な調理訓練は,趣味遂行による快刺激となり,他スタッフへのコミュニケーションや昼食を作る役割を与えた.また, 脳血管性の注意機能障害の影響も考慮したリハを行い,短期間での認知機能の向上が見られた.
【考察】認知症を呈した患者様に対して行ったリハにより,認知機能の改善が見られたことで,原因疾患に対する考察から行われるリハは認知機能の改善に有用であることがわかった.博野らの指摘にあるように,認知症に対する訓練は効果のエビデンスがほとんど示されていないことが多い.だが,原因疾患に対する考察を行い,目的を定めてその障害を適切に評価・訓練することは,在宅復帰を目指す上で重要と言える.