第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

援助機器

[PL-4] ポスター:援助機器 4

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PL-4-2] 「また美容師に戻りたい」自助具を用いて再びヘアカットが行えるようになった症例

塚田 勇気 (介護老人保健施設緑樹苑 通所リハビリテーション)

【はじめに】
対象者は美容師として働いていたが,発症後ハサミの操作が困難となり現場から離れていた.自助具としてサポーターを作成したところハサミの操作及びヘアカットが可能となった.その経過について報告する.本報告は対象者からの同意及び当法人の倫理審査委員会から承認を得ている.
【事例紹介】
70歳代女性 診断名:好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA) 家族:独居(自宅兼美容室)息子2名 介護保険:要支援2(週2回通所リハ利用) 現病歴: X年Y月肺炎疑いで入院し,EGPAと診断された.ステロイド治療で寛解したが右手の麻痺と両下肢の感覚障害が残存した.Y+4月当通所リハ利用開始となった.
【評価】制限・低下項目のみ記載
ROM flex(Rt)MP:active0°passive80°IP: active40°passive40°MMT(Rt)掌/背屈筋4母指内/外転筋1/4握力(Lt/Rt): 24.6kg/11.5kg感覚: 表在深部共に鈍麻は無いが両手,両下肢に痺れありFIM:126点 IADL:美容室の清掃や接客,従業員管理をしている.外出機会が減り,自宅で休まれている.
【実施計画】
①介入~1M: X+1年Y+6月担当OT変更.今後の方針や目標,自助具について話し合う.
②2~3M:動作評価を元に自助具(以下サポーター)を作成する.弾性のある布地を使用し,100円ショップのサポーターや手袋を改良した物を使用する.サポーターを装着してハサミの操作練習を行う.
③3~6M:サポーターを装着し,通所リハ職員をモデルとしてヘアカットを行う.
【経過】
①右母指球筋に委縮がありハサミの開閉は困難であった.復職を希望していたが通所リハ利用開始から1年半経過し,改善はみられていなかった.現状説明を行い,サポーターの作成と試行を行う同意を得た.
②手関節用サポーターに手指用サポーターを母指が対立位となる位置に調整して縫い合わせたサポーターを作成したところハサミの開閉が可能となった.手袋の指の位置を調整したサポーターやマジックテープで対立位がとれるサポーターも作成したが,ヘアカット中の姿勢変化に伴いハサミの開閉ができず難渋した.課題として,姿勢が変化しても母指の位置を保持する,長時間の作業でも血行不良を起こしにくい,等が挙げられた.
③サポーターは手関節と母指を固定する既製品で代用可能となり,ねじりながら装着すると生地の弾性により母指の位置を保持しやすく,操作の妨げにならなかった.30回以上職員のヘアカットを行った.
 息子が動画配信サイトでヘアカットの様子を配信したところ,家族,友人だけでなく全国の方々からヘアカット依頼があった.ヘアカットの頻度が増え「ちょっとずつ前みたいにカットができてきた」と話し,3か月後を目標に美容師復帰を目指している.
【結果】変化が見られた項目のみ記載
ROM flex(Rt)MP:active40°passive80°MMT(Rt)掌/背屈筋4母指内/外転筋2/4握力(Lt/Rt):24.2kg/13.9kg感覚:著変なし IADL:依頼があった客,家族,友人のヘアカットを行い,忙しい日が増えた.体調不良でも無理に活動する様子が増えている.
【考察】
本症例はEGPAによる末梢神経炎の症状として筋委縮があり,ハサミの操作が困難となっていた. 右母指は掌側内転位に保持できれば多少の対立動作が可能であったため,サポーターを活用してハサミ操作が行える可能性があると考えた. サポーターの作成・調整後,職員を対象にヘアカットを行い,実践に近い形で反復した事で動作方法の想起及び再学習に繋がったと考えられる.ヘアカットが再び行えることは美容師としての自信の再獲得になり,復職へ繋がる一歩となった.