第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

援助機器

[PL-6] ポスター:援助機器 6

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PL-6-1] 前開きジャケットのファスナーを片手で閉める自助具の開発

堀切川 尚人1,2, 加福 隆樹2, 鈴木 由美3, 藤井 浩美3 (1.山形県立保健医療大学大学院 保健医療学研究科, 2.学校法人 臨研学舎 東北メディカル学院 作業療法学科, 3.山形県立保健医療大学 作業療法学科)

【はじめに】
 脳卒中の片麻痺によって,前開きジャケットのファスナーを閉める動作が困難な方に遭遇した.そのような対象者に,洗濯バサミと荷造り紐を用いた自助具(足固定具)を考案した.足固定具は,紐の片方を二分して左右のファスナーの裾付近を挟み,反対側は輪状にして非麻痺側の足底にかけ,足を伸ばしてファスナーを張り,閉める仕組みである.しかし,足固定具は輪を足底にかける時,体幹を前傾するか,下肢を挙上しなければならず,座位バランスが低下している片麻痺者にとっては難しい動作であった.そこで,新たに膝に紐を固定して使用する自助具(膝固定具)を考案した.その概説とこの先の臨床応用を紹介する.
【膝固定具の概要】
 紐の片方を二分し,各々に洗濯バサミを取り付ける.反対側は,足固定具と同様に輪状にし,コードストッパーを取り付けて,輪の大きさを調節できるようにした.長さ調整で余った紐は,輪が膝からはずれないように大腿の下を通して固定するのに用いた.二分した洗濯バサミの紐は,ファスナーの操作性を高める目的で片方を10 ㎜長くした.
【使用方法】
 通常のファスナーは,蝶棒を箱にしっかりと入れ込みながらスライダーを引き上げることでチェーンが噛み合い,閉めることができる構造である.膝固定具使用時は,紐が10 ㎜短い方の洗濯バサミをファスナーの蝶棒側,長い方の洗濯バサミを箱側に装着することを基本とした.左手使用の場合,最初に紐が短い方の洗濯バサミをつまみ,次に蝶棒付近の裾を挟む.3工程目には,洗濯バサミ部の反対側に作製した輪を膝にかけ,余った紐を座面と左大腿後面の間に入れ込む.4工程目で前工程で入れ込んだ紐を左大腿内側付近から上に引き上げながら左膝を屈曲し,膝固定具の押さえ込みや蝶棒付近の裾の張りを強める.5工程目では,密着させたスライダーと箱に蝶棒を取り込み,6工程目で紐が長い方の洗濯バサミで箱付近の裾を挟む.最終工程では,体幹後傾や左股関節外転動作でチェーンを張り,引手を引き上げて完了する.このようにファスナーを閉める動作を7工程に分割することで,片手での動作が可能となった.
【使用例】
 健常者5名(男3名,女2名;年齢22-38歳)に足固定具と膝固定具でのファスナーを閉める動作を実施し,その際の前方・側方の動作画像(C920r,Logicool),荷重中心点(COP)と体圧分布(EM-MP710,酒井医療株式会社)を同期記録・解析した.その結果,足固定具に比べて,膝固定具のCOPの総軌跡長と前後方向の最大振幅が小さかった.なお,今回予備実験を実施するにあたり,被験者には実験の目的,趣旨を十分に説明し,同意を得た上で実施した.
【この先の課題】
 実用的な自助具の開発と臨床応用は,作業療法士の専門であり,対象者の日常生活の自立と自律を支援するために欠かせない取り組みである.この先は,片麻痺者に膝固定具を使用して,ファスナー閉め動作の実用性を検証していく.また,対象者の座位バランス能力を指標に膝固定具と足固定具を比較し,各自助具の主観的な使いやすさと座位バランス能力との関連を検証する.