第57回日本作業療法学会

講演情報

学会長講演

[PL] 学会長講演

2023年11月10日(金) 10:00 〜 10:50 第1会場 (劇場棟)

座長:仙石 泰仁(札幌医科大学 保健医療学部 作業療法学科)

[PL1] ものごとの仕組みに注目する-作業療法における問題解決の糸口として-

長尾 徹 (神戸大学大学院 保健学研究科)

本学会のテーマは「ものごとの仕組みに注目する—作業療法における問題解決の糸口として—」としました。残念ながら作業療法に関するすべての仕組みが判明しているわけではありませんが、仕組みが見つかっていてもそれを知らないという状況があるかも知れません。今まで知らなかった仕組みに気づいたとき、対応策が見つかることもあります。仕組みを知らないと、いつまでも試行錯誤が続いたり、不安が高まったりすることで合理的な行動が取れないでしょう。本学会ではそういったものごとの仕組みに着目し、作業療法を実践するうえでの問題解決に少しでも役立つような場を提供したいと考えました。
学会長講演では作業療法士として働き始めてから、私が気づいた仕組みについて開陳を試みたいと考えています。参加者の経験や知識のレベルは異なるので、万人が関心を引く内容にはならないかも知れません。数名であっても仕組みに気がついたり、新たな仕組みを発見するためのきっかけとなるお話ができればと考えています。
たとえば、多くの方がご存じの仕組みに、マズローの欲求階層説があると思います。アブラハム・マズローは、人間の欲求を「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」という5つに分類し、それらが階層構造を持っており、前の段階の欲求が充足されると、次の階層の欲求の充足段階へ移ると考えました。臨床において患者様を担当していた頃は、近年の急性期から回復期における身体障害を対象としていたことから、「生理的欲求」を満たすことが多くの目標でした。患者様もデマンドとして私に目標を提示していました。目標が達成されたら、次はこうしたい、その次はこうなりたいと際限のないデマンドの出現に、いつまで対応せねばならないのかと思った経験があります。マズローの欲求階層説は学んだことがあったはずでしたが、その存在に気づいていませんでした。再認識したとき、「そりゃそうだ」「そうなるものだ」と納得した経験があります。人の欲求は変化し、次々と沸いて出るものであり、それが普通であることを。この経験を通して目の前の対象者の理解が大きく進んだのです。現状を理解するだけではなく、次に発生するデマンドをある程度予測できるようにもなりました。本講演ではこうした経験を元に話題を展開したいと考えています。