第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

MTDLP

[PM-3] ポスター:MTDLP 3

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PM-3-5] MTDLPを活用し園芸活動獲得を目指した視床出血の一例

夏原 耀一, 森 涼子, 安本 絢美, 吉尾 雅春 (医療法人社団 和風会 千里リハビリテーション病院)

【はじめに】今回視床出血を呈した症例に対してMTDLPを活用し,本人の希望である園芸活動獲得に至った為報告する.尚,本報告は症例の同意を得ている.
【症例紹介】70歳代の女性.右視床出血を発症し保存的加療後,第16病日に当院へ転院した.病前は夫と孫と3人暮らしでADL,IADLは自立していた.
【作業療法評価】発症時のCT画像では視床中心部より背側にかけて高吸収域を認め,周辺組織への血腫及び浮腫による圧排を認めた.大脳小脳運動ループの障害によるFF制御の障害,LD・LP核の障害による上下肢体幹統合障害,空間認識困難,皮質橋網様体路の障害による姿勢制御障害,皮質延髄網様路の障害による麻痺側の屈筋群の筋緊張,運動制御障害が考えられた. FMA:52点,BRS:上肢Ⅳ,手指Ⅴ,下肢Ⅴ,STEF:右78点,左52点,握力:右9.8kg,左9.2kg,BBS:15点,CATの視覚性抹消課題,上中下検査で処理速度の低下あり,CBS:観察評価5点,自己評価15点,FIM:78点(運動項目:48点,認知項目:30点)であった. 予後予測として脳浮腫の軽減により自宅の庭での園芸活動は可能であると推測した.第20病日にMTDLPを導入した.本人の希望は「調理や庭の手入れがしたい」,家族の希望は「安全の範囲内で庭の手入れが出来るように」,合意目標は3ヶ月でADL,IADLが自立し,自宅の庭で園芸活動がほぼ出来る事とした.実行度・満足度は0点であった.
【作業療法実施計画】基本プログラムは中枢部の固定性向上,Body Imageの構築,立位での課題指向型訓練とした.応用プログラムでは様々な姿勢での上肢課題に加え,木の剪定,野菜や果物の採取を行う事とした.社会適応プログラムでは家族を含めて退院後の生活を話し合い,院内スタッフに加え,訪問リハビリやケアマネージャーへ生活行為申し送り表を用いて情報共有を行う事にした.また,PTは屋外歩行や応用動作獲得,STは買い物や調理動作獲得に向けて介入する事とした.
【介入と経過】初期(第16〜45病日)は基本プログラムを中心に介入した.課題指向型訓練は両手動作から開始し,形や重さ,操作範囲を代償動作が出ない範囲で設定した.中期(第46〜76病日)から園芸活動を開始した.立位で麻痺手を補助的に使用しながら野菜や果物の採取を実施.左側へ注意を向けることが困難であり右から順番に左側へと誘導し意識付けをした.上肢機能練習では空間での協調的な活動を中心に実施した.セルフケア及び院内の歩行は自立し,床上動作等の応用動作,簡単な調理も可能となった.後期(第77病日〜106病日)は園芸活動を中心に介入した.しゃがみこみでの動作や不整地での作業を行い耐久性やバランス機能を確認.高所での木の剪定,後処理も可能になった.調理や屋外歩行も安定して可能となった.
【結果】FMA:65点,BRS:allⅤ,STEF:右93点,左91点,握力:右14.2kg,左12.6kg,BBS:54点,CATは全体を通して年齢相応レベル,CBS:観察・自己評価共に3点,FIM:122点(運動項目:90点,認知項目:32点)に改善した.合意目標は実行度・満足度共に9点に改善した.園芸活動は退院後に訪問リハビリで動作確認し,木の剪定や野菜,果物の採取をすることが可能になった.脚立を使用した活動や土の手入れに関しては孫付き添いの下行う事にした.
【考察】今回,脳画像から対象者の希望である園芸活動の獲得は可能であると予測できた事に加え,MTDLPを通じて段階的な生活行為の目標設定を行うことができた.また,MTDLPを用いて多職種で目標共有,役割の明確化を行う事で,限られた入院期間での効率的な協働を促した可能性がある.