第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

MTDLP

[PM-4] ポスター:MTDLP 4

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PM-4-1] 退院後の独居生活を目指してMTDLPを行った症例の経験

仲里 明恵, 座覇 政成, 佐藤 圭祐, 千知岩 伸匡, 末永 正機 (医療法人ちゅうざん会 ちゅうざん病院リハビリテーション療法部 臨床教育研究センター)

【はじめに】
 今回,独居したいと想いはあるものの機能回復への想いが強く,ADL・IADL訓練への拒否がある右片麻痺・運動性失語症を呈した方を担当した.家族との関わりも低く,希望である独居生活を目指す為には機能面から生活行為へ視点を向ける事,家族との関係性改善を図る事が必要と考え生活行為向上マネジメント(以下MTDLP)を活用し取り組みを行った症例を経験したので報告する.
【事例紹介】
40代男性.独居で日雇いの仕事をしながら休みの日は友達とサーフィンをして生活していた.自宅で倒れているのを発見され,アテローム血栓性脳梗塞と診断.急性期病院を経て発症11日目に当院に入院.帰来先に関して症例は独居希望され,主介護者である兄からは「独居が難しいなら施設」と聞かれた.
【作業療法評価】
MTDLP導入時(当院入院3ヵ月)Brs右上肢Ⅱ手指Ⅰ下肢Ⅲ,運動性失語症,注意障害あり.Q-cane歩行監視,車いす駆動での移動や移乗は自立.機能回復への想い強く「(手足が)治ればできる」とADL,IADL訓練,自宅訪問に対し必要性を感じず拒否があった.独居に対する生活への気づきと動作獲得が必要と考え,ADOC絵カード用いて具体的なイメージ化やMTDLPを用いて考えの整理を図った.そこから買物活動が挙がり「T字杖歩行でスーパーでの買い物が支援者と一緒に出来る」との合意目標を設定し,初回の満足・実行度はともに1点だった.
【介入の基本方針・作業療法実施計画】
 機能回復への想いに対しては機能練習や自主練習を併用し本人の満足感を維持するよう努めた.症例との関わりでは「自身で考え,決定する」ことを重要視した.また,兄に対して症状の理解を促しシートで目標の共有,目標達成や退院後の生活には兄の協力が必要な事の認識を図り,協力を求めた.
【介入経過と結果】
導入1~2週目:面談で症例・兄へ症状や予後予測の説明を行った.症例は訓練以外の時間は自室で過ごし麻痺側手指を見つめ考え込む場面多くみられた.機能練習の要求はあるもADL・IADL訓練の介入が少しずつ可能に.兄との関わりはセラピスト介しながら実施.目標説明後,兄より「出来るかな」と消極的な発言が聞かれた.
導入3~6週目:年の近い片麻痺の患者とリハ時間が重なるように調整し,失語症患者の集団会話練習を設定し交流機会を増やした.症例からは機能練習に対しての要求は聞かれず,自室外で過ごす場面が増えた.兄との関わりはセラピストを介さなくても可能となり自ら兄へ電話し要件を伝えようとする場面がみられた.
導入7~9週目:目標の進行状況の振り返りを実施.自宅訪問は拒否なく実施可能となり訪問実施後,難しい動作に対して自ら工夫する場面を認めた.兄からも「なんとか独居できそう.手伝える事は言ってください」と前向きな発言があり来院回数が増えていった.
導入10~12週目:施設外訓練を実施し,症例より「もう大丈夫」と発言があり.目標の実行度・達成度は8点に改善を認めた.また,「退院したら仕事をしたい」との新たな目標が聞かれるようになり,入院中に就労支援事業所の見学を行った.兄より退院後の介護保険サービス活用や生活支援に対して積極的に提案が聞かれた.
【考察】
 機能回復への想いが強くADL訓練やIADL訓練に拒否があった症例に対しMTDLPを活用した.その結果,症例・兄ともに退院後の生活への自信付けに繋がり独居での退院が可能となったと考える.また,症例が自身の障害と向きあうきっかけとなり機能面から生活行為へ視点を向けやすくなり,さらに「仕事したい」と新たな目標が挙がったのではないかと考える.