第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

地域

[PN-1] ポスター:地域 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PN-1-10] 中小企業労働者におけるワーク・エンゲイジメントと慢性疾患,ストレス,心理的安全性の関連性についての検討

爲國 友梨香1, 元廣 惇2,3, 白土 大成4, 由利 拓真5 (1.九州大学病院リハビリテーション部, 2.株式会社Canvas, 3.島根大学地域包括ケア教育研究センター, 4.鹿児島大学大学院保健学研究科, 5.京都大学医学部付属病院リハビリテーション部)

【目的】
少子高齢化の進展に伴い,日本の企業の9割を占める中小企業では労働者不足と高齢化が進み,慢性疾患を持ちながら勤続する者が増えると想定される.この背景から労働者の健康増進,労働生産性と職場への定着率を向上させる必要があり,作業療法士の「人・作業・環境」を分析する視点が活用できる可能性がある.労働経済白書(厚生労働省)では,近年,仕事に関連するポジティブで充実した心理状態である「ワーク・エンゲイジメント」が着目されており,仕事環境や離職率の低下等との関連が多数報告されている.一方で本邦では,慢性疾患も含めてこれらの関連を分析したものは見当たらない.そこで今回は中小企業労働者を対象として,ワーク・エンゲイジメントと慢性疾患,ストレス,心理的安全性との関連を検討することを目的とした.
【方法】
2021年に株式会社Canvasの事業に参加した島根県内中小企業従業員のうち本研究に同意した603名(平均年齢43.0±13.3歳,女性35.8%)のデータを横断的に分析した. 自記式質問紙にて,基本属性,慢性疾患,ワーク・エンゲイジメント,ストレス,心理的安全性を評価した.基本属性は,年齢,性別,BMI,雇用形態,年収,教育歴,飲酒,喫煙について調査した.また,慢性疾患については,先行研究を参考に高血圧症,糖尿病等の16項目にて医師に診断されている疾患の有無および数を評価した.ワーク・エンゲイジメントはUltrashort Version of the Utrecht Work Engagement Scale(UWES-3)を使用し,ストレスについては,仕事のストレス要因・心身のストレス反応・周囲のサポート・満足度のドメインからなる職業性ストレス簡易調査票にて評価した.加えて,心理的安全性についてはEdmondsonらにより開発された尺度を使用した.分析はUWES-3を従属変数とした相関分析および,重回帰分析を実施した.重回帰分析は独立変数に,慢性疾患の数,仕事のストレス要因,心身のストレス反応,周囲のサポート,満足度,心理的安全性を投入し基本属性にて調整した.なお本研究は島根大学倫理審査委員会にて承認を得た(承認番号:2022-2).
【結果】
慢性疾患ありが187名(31.0%)で,内訳は高血圧54名,その他の疾患46名,高脂血症,胃腸疾患各30名と続いた.相関分析ではUWES-3と慢性疾患r=-.14,仕事のストレス要因r=-.34,心身のストレス反応r=-.18,周囲のサポートr=-.33,満足度r=-.42,心理的安全性r=.34の各項目で有意な相関を認めた.重回帰分析の結果,「仕事のストレス要因」(β=-.30)「満足度」(β=-.26), 「心理的安全性」(β=-.16),が有意な関連を認めた(R²=.33).
【考察】
ワーク・エンゲイジメントは慢性疾患,ストレス(仕事のストレス要因,満足度),心理的安全性の各項目と関連することが示唆された.先行研究では慢性疾患の有病がワーク・エンゲイジメントの低下や離職のリスクを高めると報告されているが,慢性疾患と併せてストレスと心理的安全性との関連まで分析した本研究の結果からは,職場のストレス要因が低く,満足度が高く,心理的安全性が高い職場では慢性疾患の有無に関わらずワーク・エンゲイジメントを維持できる可能性が示唆された.本研究の限界として,横断研究であり因果関係は断定できないこと,自記式のため慢性疾患の詳細な情報は把握できていない点等が挙げられる.今後は経時的な評価を実施し,労働生産性の向上や医療費の削減に貢献することが課題となる.