第57回日本作業療法学会

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ポスター

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[PN-11] ポスター:地域 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-11-3] 当院の入浴事情

渡邊 真悠子1, 林 大貴2, 加藤 強1 (1.国家公務員共済組合連合会 新別府病院リハビリテーション科, 2.ケアポート渓和)

【はじめに】別府市は源泉総数,湧出量共に日本第一位であり,150カ所以上の温泉が点在している.その中で,当院は別府市のほぼ中央部に位置しており,三次救急を担う急性期病院である.入院患者にも公共温泉を日常的に利用している方が多いが,どのような環境下で入浴を行っているか十分に把握できていない現状がある.乙黒らによると,"入浴動作は様々な複合的な動作の集合体である.バリアフルな環境も加わり,最も自立が難しいADL."とされている.退院後の公共温泉での安全な入浴動作獲得に向け,普段利用している公共温泉の環境を把握する為,アンケート調査を行い,その情報を基にプログラムを立案・実施したため症例を含め報告する.また,本調査は倫理的配慮に基づき実施した.
【方法】対象は令和4年4月から6月までにリハビリテーション処方箋が出された全患者529名.回収率89%.平均年齢79.8±14.5歳.男女比≒46:54%.アンケート内容は,頻度・移動方法・環境・持参物・利用理由等を聴取.
【結果】公共温泉を利用されていると回答された方は全体の12%であり,そのうち毎日利用している方が約半数であった.独歩にて,自宅から100m以内の公共温泉を利用されている方が中心であったが,300m以上と自宅から遠い公共温泉を利用される方もいた.環境面については,脱衣所と浴室内に椅子や手すりが設置されていた公共温泉は6割程であり,段差や階段が存在している公共温泉は9割と多かった.石鹸・シャンプー・タオル等を完備している所は少ないため,籠や鞄で持参する必要があることが分かった.利用理由は,「近所の方と会話ができる」という意見が多く,地域交流の場として利用していたり,中には「自宅に浴室がない」という方もいた.
【症例紹介】アテローム血栓性脳梗塞を呈した70歳代男性.入院時BI:65点,杖歩行一部介助レベル.入院前は毎日公共温泉を利用されており,退院後も再度利用したいとの希望が聞かれた.アンケートを利用し情報収集を行い,プログラムの立案・実施をした.リハビリ室では,浴室環境を再現した床からの立ち座り動作,独歩・階段昇降練習を実施.歩行練習では2Kgの荷物を持ち,屋外での坂道歩行や,雨が降った場合を想定し傘をさしての歩行練習を行った.また,当院の展望浴室を利用し,実際の場での入浴動作練習や評価を行い,患者や看護師と情報共有を行った.結果,発症+20日にBI:100点となり院内での入浴動作も自立できた.しかし,自宅退院に対する体力面の不安により回復期病院へ転院となった.
【まとめ】公共温泉での入浴は一般的な自宅の浴室と違い,公共温泉までの移動能力が求められる.さらに,公共の場であることから福祉用具導入が難しいため,バリアフルな環境へ適応できる高度な身体能力が必要であることが分かった.安全な入浴動作獲得のためには,通常の入浴動作練習に加え,温泉環境の情報をもとにバリアフルな環境を再現し練習を行うことが重要だということが分かった.また,本症例は入浴動作自立となったものの体力面の不安が残ったことから,院内ADLのみでなく温泉利用に重要となる耐久性獲得のため,日中の離床時間や活動量を増やすことも重要であることが分かった.今後は,入浴アンケートに加え,リハビリスタッフが公共温泉施設を訪問することで,より詳細に環境把握を行い,地域特性を理解したアプローチを行っていく必要があると考える.また,退院後に公共温泉を継続利用できているか追跡調査を実施し,入院中のアプローチが適切であったかを検討していく.