第57回日本作業療法学会

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ポスター

地域

[PN-11] ポスター:地域 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-11-7] 家族への介入後に好転した一事例

荒井 留美子, 伊東 由美子, 神原 沙希 (多機能型支援センター Yerette)

【はじめに】筆者は精神病院勤務から事業所を立ち上げ,主に発達障害を含む精神障害のある方々に関わっている.アタッチメント(自己の生存確率を上げるための生態システム)の視点の重要さを感じつつ,病院では介入が難しい実情もあった.しかし,一時的に代理的アタッチメント対象を担うことや家族への介入は,重要な作業療法戦略の一つとなり得ると考える.また内的変化を客観的に測定する方法として,今回箱づくり法検査を用いたことで,それらの変化を可視化し捉えることができたため,報告する.事例についてデータ使用を含め今回報告することの同意を得ている.
【事例紹介】A氏30代女性,診断は,うつ,軽度知的障害であるが,自閉症スペクトラムの存在も窺える.幼少期より兄,両親,祖母などからの虐待あり.短期大学卒業後,就労するが兄が結婚直後,自身も結婚アプリを利用して結婚.県外での生活となり2児の母になるも,離婚.地元に帰るが,実家に受け入れられない感覚から自殺企図.A氏は医療保護入院,その際A氏の娘達は一旦実家に引き取られた.A氏退院後,次女は戻ってきたが,長女はA氏の実家に留まっている.行政が関わっていたが困って当事業所が紹介され自立(生活)訓練事業の利用に至る.
【経過】当事業所利用初日にアセスメントのため箱づくり法検査を実施.利用当初はこども相談室相談員と一緒でないと外出,参加できず,緘黙で発語がなくジェスチャーでの返答が多かった.1回目の箱づくり法検査における体験特徴の結果では,とても委縮したグラフとなっており,個人面談では家族や親族に対する攻撃性が強く,殺意を口にすることも多かった.まずは安心安全な環境と筆者との信頼関係の構築に努めるべく,代理的アタッチメント対象として関わった.両親に対する殺意に著変なく,A氏の家族との関係改善を目的として利用開始後1年経過辺りから両親への介入を開始した.A氏は若干,筆者に対して依存的傾向ではあったが,両親への介入直後から筆者への依存は激減し,発言量が増えていった.3年をかけて両親とA氏をつなぐ介入をし,気兼ねなく行き来できるようになった頃,2回目の箱づくり法検査を実施した.体験特徴では,順序と正確さの難しさ:1.5,対処回避感:1.2,予測判断の不全感:1,自己決定不安・疲労感:0.9の順に変化量が大きかった.また,数値としてはそれぞれ1の変化ではあったが,「援助希求感」に関する項目が全て増加していた.機能別遂行機能特徴においても1回目より2回目の方が心理的に余裕ある取り組みが確認された.これら検査結果を本人・関係機関と共有した上で,就労移行支援事業の利用に移行し,就職活動に取り組んでいる.
【考察】今回のケースでは,当初,アタッチメントの偏りから周囲の人間への不信感が非常に強く,それらは箱づくり法において委縮した体験特徴に顕著に表れていた.家族介入後は本人の行動様式の変化が顕著に見受けられた.今回,箱づくり法検査を用いて,それらを客観的に捉えることができた.特に援助希求感が増え,困難感や不安感,投げ出したい気持ちを素直に感じ,表現できるようになり,疲労感への気付きなど自身のメンテナンスに必要な機能の回復など可視化して本人・関係機関と共有できたことは大変有用であった.アタッチメントの問題のある当事者にとって,代理的アタッチメント対象の存在や家族介入の有無は内的変化を大きく左右すると思われた.ただ,家族への介入のみが変化を生じさせたわけではないと思われるため,今後,条件を揃えての家族非介入群との比較検討も必要と考える.