第57回日本作業療法学会

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[PN-12] ポスター:地域 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-12-11] 心不全を伴った高齢者に楽しさプログラムを提供した事例

奥野 優輝1, 得能 真衣1, 本家 寿洋2 (1.イムス札幌内科リハビリテーション病院通所リハビリテーション, 2.北海道医療大学大学院リハビリテーション科学研究科)

【はじめに】心不全を伴った高齢男性に対して,本家ら(2021)が開発した楽しさプログラムを参照して楽しさを学ぶプログラム(以下,楽しさPG)を実施した.本報告の目的は,楽しさPGによって心不全を伴った高齢男性の主観的幸福感,抑うつ症状,うつ症状,作業参加,生きがいが改善するかを検討することである.なお,本事例には本研究を口頭および書面にて同意を得た.
【事例紹介】A氏80歳代男性,要介護1.X年に第2腰椎圧迫骨折で当院入院していたが,1か月後に急性心不全増悪,慢性腎不全の診断で転院し,2週間後にリハビリ目的で当院再入院した.3ヶ月後退院し当事業所に週2回通所している.既往歴は心不全,慢性腎不全,糖尿病,腎性貧血がある.病前は畑仕事に勤しんでいた.現在は,冬季間で畑仕事ができず,腰痛から自宅では臥床傾向だった.妻と息子との三人暮らしで日常生活は自立だが,移動時は屋内外で転倒リスクが高かった.
【作業療法評価と計画】主観的幸福感は,改訂版PGCモラールスケール(以下,PGC)で7/11点,自記式の一般外来患者用不安抑うつテスト(以下,HADS)は不安:7/21点・抑うつ:10/21点で抑うつの疑い,老年期うつ病評価尺度(以下,GDS15)は7/15点でうつ傾向だった.作業参加は作業に関する自己評価(以下,OSAⅡ)が有能性44点・価値66点,環境の影響20点・価値29点だった.生きがいは,生きがい意識尺度(以下,Ikigai-9)で29/45点だった.楽しさPG開始前はケアプランに沿った機能訓練をしており,腰痛や抑うつ症状が改善しなかった.そこで,作業療法ではケアプランに沿った機能訓練を20分と楽しさPGを約30分実施した.楽しさPGでは毎回の開始前に前回の復習をした.1〜8回目は高齢者版・余暇活動の楽しさ評価法(以下,LAES)の構成概念である5つの楽しさを学び,9回目はA氏の重要な余暇活動のLAESを実施した.また,10,11回目では,9回目で抽出された重要な余暇活動の5つの楽しさを学んだ後にA氏が経験した内容を語ってもらった.
【経過】1〜8回目では,様々な余暇活動の項目から<畑仕事>の楽しさを多く語った.4回目では,A氏は楽しさPGや腰痛の改善について筆者に感謝しており,5回目では,家族に感謝していた.7回目では,初めてA氏は「楽しみを持てる物が欲しい」と語った.8回目では,A氏は「趣味を続けると時間の忘れを感じる.畑仕事をすると老いを忘れる.心が豊かになるのが第一.勤労奉仕の気持ちが出る.自分の体を使いたい」と語った.9回目では,<畑仕事>のLAESの<好きである>から「大好き」と語った.10,11回目では,職員と楽しさPGの参加に感謝していた.また,「雪解けが楽しみ」と笑顔で語った.
【結果】PGCは10/11点,HADSは不安:2/21点・抑うつ:2/21点,GDS15は1点,OSAⅡは有能性59点・価値70点,環境の影響24点・価値24点,Ikigai-9は36/45点であった.
【考察】抑うつ症状・うつ症状の改善について,大屋ら(2021)は心不全患者に楽しさPGの実施で抑うつ症状が改善した報告や,西村ら(2021)は維持期脳卒中患者にLAESの結果を考慮した余暇活動がうつ症状の改善に貢献した報告がある.本事例では病状は違うが,LAESを基盤とした楽しさPGが進むにつれてA氏の楽しさを想起した語りが増えたことで,抑うつ症状・うつ症状の改善が考えられた.作業参加,主観的幸福感と生きがいについて,Oishiら(2021)は,心理的に豊かな人生を送る人々は,好奇心が強く,より全体的に考えることを示唆する報告をした.今回,楽しさPGの中でA氏は他者への感謝や奉仕の気持ちを想い出し,心の豊かさや新たなことを学ぶ重要性の語りから作業参加,主観的幸福感と生きがいの改善が考えられた.