第57回日本作業療法学会

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[PN-12] ポスター:地域 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-12-9] 訪問リハビリでACLS-5を使用し家族と協働できた一事例

刑部 美里1, 松澤 良平1, 渡辺 陵介2 (1.IMS(イムス)グループ イムス板橋リハビリテーション病院, 2.東京福祉専門学校)

【はじめに】認知能力が低下している方の作業療法では,介護者である家族への関わりが重要となる.今回,本人の認知能力と家族の期待に乖離がある事例を担当した.認知障害モデルに基づく評価であるAllen Cognitive Level Screen‐5(以下, ACLS‐5)を用いて本人の認知能力を捉え,家族に説明することで乖離を埋め,本人が望む買い物の実現に近づくことができ,また,家族に変化が見られたため報告する.なお,発表することについて,本人と家族の同意を得ている.
【事例紹介】A氏60歳代,女性.X年Y月にくも膜下出血を発症し,著名な麻痺はなかったが,高次脳機能障害があった.既往歴として統合失調症があった.Y+5月に自宅に退院し,生活状況としては,入浴以外のADLは自立しており,Barthel Indexは90点であったIADLは基本的に同居の弟が行っており,Frenchay Activities Indexは3点であった.介護度は要介護4の認定で,通所介護を週2回,訪問リハビリテーション(以下, 訪問リハビリ)では,「買い物が一人でできる」ことに向けて理学療法と作業療法をそれぞれ週1回ずつ利用していた.Y+17月に担当作業療法士が変更になった際,A氏は購入する商品のリストが記載されているメモを見ることが定着しつつあったが,道に迷うことやメモに書かれていない商品を多量に購入しようとすることがあったため介助が必要であった.また,弟はA氏がメモに書かれた通りの商品を購入することを期待しており,生活全般でA氏の認知能力と弟の期待に乖離がある状態であった.
【介入】A氏の現在の認知能力を評価するためにACLS-5を用いた.評価結果はmode4.4で,日中独居が可能であり,馴染みのある場所に行くことができるレベルであった.また,環境調整や家族指導が必要であり,反復練習が有効とされている.そこで,弟に生活全般でA氏にとって適切な課題になるように認知能力を説明した.買い物については,ACLS-5を実施する前までは「メモに書かれた商品を購入する」という課題だったが,A氏の認知能力に合わせて「好きな商品を決められた金額の中で購入する」という課題に変更した.道に迷うことに関して,弟は失望していたが,作業療法士から弟に地図を見て行くことを提案し了承を得た.行く場所を1つに絞ることから始め,段階付けて2ヶ所目に行くことを反復練習をした.
【結果】ACLS-5を評価して5ヶ月後に道に迷うことはなくなった.また,購入する商品が多少違うことはあるがメモを見て購入することができるようになった.その後,訪問リハビリ以外の時間に弟の遠位見守りの下パン屋で買い物ができるようになった.また,弟は訪問リハビリ時に笑顔が増えた.加えて,A氏の認知能力を理解し,入浴方法で柔軟に対応出来るようになった.
【考察】ACLS-5は,対象者の認知能力に合わせた生活の課題設定が可能という特徴がある.A氏に合った適切な課題で反復練習したことで短期間で効果が出たと考えられる.また,主介護者である弟がA氏の認知能力を理解したことで,弟の心に余裕が生まれた.訪問リハビリでは,家族に対する支援も重要であり,ACLS-5は家族と協働するために有効な評価であると考える.