第57回日本作業療法学会

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ポスター

地域

[PN-3] ポスター:地域 3

Fri. Nov 10, 2023 1:00 PM - 2:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PN-3-10] 介護予防に資するオンラインを用いた協調活動中の脳活動

土屋 謙仕1, 望月 ゆかり2, 樋口 かんな3, 山谷 礼輝4, 菊地 千一郎5 (1.長野保健医療大学保健科学部, 2.巨摩共立病院リハビリテーション科, 3.足利赤十字病院リハビリテーション技術課, 4.東北大学大学院医学系研究科/東北大学加齢医学研究所, 5.群馬大学大学院保健学研究科)

【はじめに】 高齢者の介護予防のため対人交流を目的とした集いの場が広まっている.しかし,新型コロナウィルス感染症により休止や自粛を余儀なくされ,オンライン環境下での集いの活動も行われた(日下菜穂子ら,2022).オンラインを利用したビデオ会議の特徴は,対面時よりも集中力を必要とし,身体的及び精神的に負担が高まると報告されている(Geraldine Fauville, et al., 2021).また精神的に高負荷な状態は,前頭前野の背外側部(DLPFC)の活動を高めると言われる(Akira Ishii et al., 2014).これらから,オンラインの利用は,対人交流活動中の脳活動に対して影響を与えていると仮説を立てた.しかし,その影響は明らかになっていない.
【目的】 本研究の目的は,オンラインと対面の対人交流時の脳活動の違いを明らかにすることとした.
【方法】 本研究は,人を対象とする医学系研究倫理審査委員会の承認 (試験番号:HS2019-243) を得て実施した.対象者は右利きの健常成人の男女とし,対面条件で30名15組(平均年齢20.8歳,男性3組,女性12組),オンライン条件で30名15組(平均年齢20.7歳,男性5組,女性10組)とした.各ペアは相互に顔見知りの同性のペアとした.対面条件とオンライン条件はペアごとにランダムに振り分けた.対面条件では2人の対象者がお互い向かい合って椅子に座り課題を実施し,オンライン条件では2人の対象者が別々の部屋に分かれ,ペアの相手の顔は正面に設置したパソコンの画面上で相手の目を見て課題を実施した.課題内容は対人交流として歌唱課題を選択し,歌唱課題は,対象者に馴染みのある日本の童謡の「大きな栗の木の下で」を課題曲とした(Naoyuki Osaka, et al., 2015).課題内容は,1人で歌う,2人で歌う,であり実施の順番についてはランダムに割り当てた.課題中は光イメージング脳機能測定装置Spectratech OEG-16 (fNIRS)を用いて脳活動を計測した.関心領域 (ROI)は,バーチャル・ レジストレーションを用いて特定を行い,左右のDLPFCとした.体動による血流変化の影響は,血流動態分離法を用いて除去した.呼吸,心拍の影響は,バンドパスフィルターを使用し除去した.データ解析は,酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)とした.脳血流量変化は,条件(オンライン・対面)と課題(1で歌う・2人で歌う)での二元配置分散分析により比較し,Bonferroni法にて多重比較検定を行った.有意水準は5%未満とした.
【結果】 脳活動は,左DLPFCにおいて,条件要因に有意な主効果が得られ(F(1,58)= 4.705, p=0.034, partial η2=0.074),オンライン条件の方が有意に大きく賦活していた.課題要因の有意な主効果,および有意な交互作用は得られなかった.多重比較検定を行った結果,1人で歌う課題において,オンラインと対面の間に有意差が見られた(p=0.026, d=0.59).右DLPFCには,有意な主効果や交互作用は見られなかった.
【考察】 オンラインを介した対人交流活動中の脳活動は,対面に比べ左DLPFCでより大きかった.左DLPFCは,情報を整理,計画,実行する働きを担う脳領域である(Frank Ho-yin Lai, 2021).本研究の結果は,オンライン会議は認知負荷を高めるという指摘 (Jeremy N. Bailenson, 2021)の神経基盤を示唆するものであると考えられた.オンラインを利用した介護予防教室を実施する際は,この特性を理解して対応することが重要だと考えられた.また僻地や災害地でのオンラインを活用した診療等でも,この特性の理解は重要になると考えられた.