第57回日本作業療法学会

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[PN-5] ポスター:地域 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PN-5-10] 通所介護の利用を拒否した軽度認知症の人に対する強みに着目した社会参加支援

加茂 永梨佳1,2, 田中 美和1, 古和 久朋3 (1.一般社団法人より処いっぷく, 2.神戸大学大学院保健学研究科博士課程前期課程, 3.神戸大学大学院保健学研究科)

【序論】認知症の人の中には,介護サービスが必要であるにもかかわらず希望しない人も多い(神戸市,2020).
【目的】通所介護の利用を拒否した認知症の人が利用に至り継続した経過から,強みへの着目及び安心できる環境の重要性を報告する.発表に際し,本人と成年後見人に説明し同意を得た.
【方法】A氏は70歳代後半の女性で独居であった.X年Y月に夫が他界し生活管理が困難となり,知人や認知症初期集中支援チームの支援を受け受診した結果,アルツハイマー型認知症と診断された.自宅に閉じこもり独居生活への漠然とした不安があり,社会交流のために通所介護の利用を勧めたが“世話になりたくない”と拒否した.A氏は“誰かの役に立ちたい”という希望を持ち,過去に農業の経験があったことから,(当通所介護の)農作業の手伝いを依頼する形で体験利用し,X年Y+5月から週1回の頻度で利用を開始した.開始時の臨床的認知症尺度 (以下CDR)は1,地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメント(以下DASC-21)は38点,神経精神目録-質問票(以下NPI-Q)の重症度は9点であった.身体機能は数十年前の交通事故による右足関節可動域制限と,下肢筋力低下があった.ADLはFIMの運動項目89点,認知項目26点,IADLはFAI26点,生活満足度は10点満点中5点であった.生活歴として10歳代は実家が営む農業の手伝い,20歳代以降は芸者や飲食店の勤務や家族の世話等,A氏の生活には常に“仕事”があった.介入は農作業を細分化し,A氏の過去の経験と現在の心身機能を考慮して実施可能な工程の中でA氏の希望を加味して実施した.
【経過・結果】1か月目,畑では「百姓の子や,任しとき.」と得意気に実施した一方,個別で聴取をした際には「失敗して迷惑を掛けてはいけないと思うと気疲れする.」と話した.中腰の作業が連続すると腰痛,疲労が発生したため,立位や座位で可能な収穫作業へ変更した.野菜と葉の色が似ている場合は,収穫の際に見落とすことがあったため,野菜を別の人が見つけA氏がハサミで切り工程毎に分担した.作業遂行の支援に加えて,できないことはお互いに助け合えばよいことや,適宜休憩を促し無理する必要はないことを繰り返し伝えた.3か月目,A氏は「ここに来るとほっとする.」と発言した.5か月目,社会交流の増加を目的に利用頻度を週2回へ増やし,農作業のプログラムがない日にも拒否なく適応できた.9か月間一度も欠席はなかった.9か月目,CDR,DASC-21,FIMの点数は著変なかったが,NPI-Qの重症度は5点,FAIは29点,生活満足度は9点と改善した.満足度が9点の理由を聞くと,「ここに来ればみんなに会えて役に立てるのが嬉しい.」と発言した.
【考察】今回,“世話を受けるだけでなく,誰かの役に立ちたい”というA氏の強みに着目し,生活歴,価値観,心身機能を考慮して,農作業を中心に作業の難易度を調整した.Maslowの欲求段階説(Maslow,1978)では,人間の欲求を低次から高次の順に生理的,安全と安心,所属と愛情,承認,自己実現に分類し,高次の欲求が満たされるためには,予めより低次の欲求が部分的にでも満たされる必要があるとされる.“世話になりたくない”“迷惑をかけてはいけない”という開始前~開始後1か月目のA氏は,安全と安心の欲求段階であったと考える.難易度が調整された作業に継続的に取り組み,安全と安心の欲求が満たされたことで,所属意識や他者の役に立っている実感が生じ,より高次の所属と愛情の欲求,承認欲求が満たされたと考える.通所介護の利用を拒否した認知症の人が継続的な利用に至ったのは,強みへの着目及び安心できる環境を創出したためと考える.