第57回日本作業療法学会

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[PN-6] ポスター:地域 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PN-6-4] 障害者へのテレワーク支援に対する就労支援を行う作業療法士の認識に関する研究

野崎 智仁1,2, 山口 明日香3 (1.国際医療福祉大学保健医療学部作業療法学科, 2.NPO法人那須フロンティア, 3.高松大学発達科学部)

【はじめに】COVID-19の流行とともに障害者の働き方にも変革がみられている.山口らは,日本職業リハビリテーション学会員を対象とした障害者のテレワークに関する調査で「知的障害者には困難」57.0%,「発達障害者には困難」48.8%,「高次脳機能障害者には困難」43.0%,「精神症状が悪化する」44.2%と,導入の困難さに関する結果がみられた反面,「障害者雇用での有効性は高い」70.0%という結果を報告した1).国土交通省は首都圏がテレワークの高い利用状況2),総務省は大企業を中心にテレワークを利用した3)と報告しており,中小企業が多い北関東地域(群馬,栃木,茨城)では,障害者雇用においてテレワークの有効性を感じつつ,情報や経験の不足により,普及が阻害されているのではないかということが考えられる.本研究は,北関東地域における障害者へのテレワーク支援について,方略を検討するための基礎資料となることを目的とした.
【方法】研究対象者は,北関東地域で就労支援を実践する作業療法士4名.自身の支援経験のみならず,支援地域全般の知見を述べることができるよう,10年以上の支援経験がある者とした.研究デザインは質的帰納的研究とし,半構造化面接を実施.調査期間は2022年2~3月.インタビューは録音し,データは逐語化して分析に用いた.逐語化したデータを,Nvivo 12を用いてGTA法により分析した.意味単位でコード化,類似するコードをカテゴリ化した.カテゴリの共通点や相違点を比較分類,最終的にはコアカテゴリを導いた.さらにコアカテゴリ間の関連をプロセスと合わせて図式化した.分析の妥当性,内容の検討は,当該分野の専門的立場の方に助言を得て実施した.本研究は,高松大学研究倫理審査委員会の承認を受けた(番号20211002).
【結果】「テレワークに必要なICTツール」「テレワーク支援の経験」「テレワークのメリット・デメリット」「テレワークに必要な支援者の技術・知識」「支援を行う地域にテレワークが普及しない要因」がコアカテゴリとして生成された.テレワークに必要なICTはPCやzoomなど,使用指導は一部で,事務業務の遂行可能かが目安であった.企業や他支援機関との連絡で,情報量の減少や,関係の未発達について意見がみられた.研究対象者のテレワーク支援の経験は僅かであり,想定した発言が多かった.また,テレワークのデメリットに関する内容が多く,障害者へ失敗経験を積ませたくないというリスクへの考えがあった.
【考察】研究対象者は,単に情報共有にとどまり,共有する情報量も十分でない感覚を抱いていた.また,コミュニケーションの評価に非言語的情報を重要としたが,テレワークにより制限されている感覚を抱いており,このことが導入への不安や迷いが生じる要因でもあると考える.本研究の対象地域では,多くの企業においてテレワークは浸透していない.支援実践者,企業のどちらも,経験不足から支援方法が確立されておらず,リスクに関する意識の高まりへとつながっている可能性がある.
参考資料:
1)山口明日香 他:日本職業リハビリテーション学会員を対象としたコロナ禍の調査結果報告,職業リハビリテーション,2021,35,1,22-29
2)国土交通省:新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う現時点での社会・国土の変化について,2022
3)総務省:デジタルで支える暮らしと経済,2022
付記:厚生労働科学研究費補助金「就労系障害福祉サービス事業所におけるテレワークによる就労の推進のための研究(21GC1017)」の助成を受けた.