第57回日本作業療法学会

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[PN-7] ポスター:地域 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-7-2] 脳卒中後の睡眠障害改善に向けた「作業に根ざした実践2.0」の臨床有用性

森脇 善幸, 荒木 夕佳 (特定非営利活動法人キセキ みなくるはうす下松)

【はじめに】脳卒中患者の睡眠障害の発症率は25-78%であり,早期社会復帰を実現する上で睡眠障害に視点を向けることは非常に重要である.また回復期リハビリテーション病棟や訪問リハビリテーション,発達障害領域での作業に根ざした実践2.0(OBP2.0)についての報告は見受けられるが,生活期における睡眠障害の改善に向けたOBP2.0を用いた報告は見当たらない.この度,自立訓練施設における脳卒中後事例の睡眠障害への介入において,OBP2.0を用いることにより作業機能障害および信念対立への介入を行うことで睡眠障害の改善に至った経験をしたため,ここに報告する.
【目的】OBP2.0を用い,睡眠障害改善に向けた介入を行うことで有用性を検証する.
【倫理的配慮】当報告において,人を対象とする医学的研究に関する倫理方針ガイダンスを遵守し,事例には十分な説明を行い,書面での同意を得ている.
【事例】右脳梗塞・左被殻出血を同時に発症した50歳代男性.発症372病日より当事業所にて介入を開始.発症前は会社を経営し良質な睡眠時間を確保していたが,発症以降それが困難になっている.当事業所への通所は週に3回.就労することを強く希望している.
【初期評価】睡眠について「眠れない時には処方された眠前薬を一気に8錠飲むこともあるけど,なぜか眠くならない.医師が信用できない.」と訴える.OTRは眠前薬の乱用は危険であることを事例に伝える.事例とOTRとの間に信念対立が生じる.翌通所日に呂律不良・立位困難により通所が困難になることがある.臨床における作業機能障害の種類と評価(CAOD):作業不均衡18/28点,作業剥奪7/21点,作業疎外14/21点,作業周縁化14/42点.アテネ不眠尺度(AIS):9/24点.
【方法】宗澤らは,不眠症の治療に有力な治療法は不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)であると述べている.生じている信念対立について状況と目的を整理した上でCBI-Tの技法の中で最もよく用いられる刺激制御法と睡眠制限法を実施.睡眠状況については睡眠記録表への毎日の記載を促す.また深部体温が最も高くなる夕方に3METsの運動を毎日30分間行うと睡眠の質が向上するという報告がある.階段昇降や屋内の掃除を当事業所および自宅で毎日実施し,用紙への記録を促進.1ヶ月に1回,CAODにて作業機能障害を,AISにて不眠尺度を評価.合計2ヶ月実施.
【経過】介入28日目,CAOD:作業不均衡12/28点.AIS:5/24点.毎回安定して通所可能になった.眠前薬を乱用することの危険性について説明書を用いながら説明.その後眠前薬を乱用することはなくなったが,依然として床上時間が10時間前後,睡眠時間が2時間前後と両者に差が生じている状況.両者の差を短縮することを目的に継続してCBT-Iを実施.「薬に頼らなくても良いことに気づいてからは少し楽になった.」「でもまだ仕事ができる状態にはない.」との発言が認められる.
【結果】介入61日目,CAOD:作業不均衡7/28点.AIS:2/24点.床上時間・睡眠時間が共に8時間前後になり,両者の差はない状況.「今は全く薬に頼っていない.」「仕事もやっていきたい.」と前向きな発言がある.その後当事業所で就労評価を行い,就労継続支援A型施設での就労が決定.
【考察】作業機能障害は主に作業不均衡が生じており,床上時間および睡眠時間の差を短縮できたことで解消に向かったと考える.また信念対立については事例とOTRとの間に生じていた.事例の状況を踏まえ,目的を共有してCBT-Iを方法として実施.また眠前薬を乱用することの危険性の説明や睡眠記録表を用いて睡眠状況を可視化して事例の気づきを促進することで睡眠の質が改善し,事例が望む就労へと繋がったと考える.