第57回日本作業療法学会

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ポスター

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[PN-7] ポスター:地域 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-7-3] 熟練作業療法士の経験からわかる精神科訪問看護の課題

辻 陽子1, 橋本 弘子2 (1.関西福祉科学大学保健医療学部, 2.森ノ宮医療大学大学院保健医療学研究科)

【はじめに】 精神障害に対する地域移行が進む中,訪問看護の役割は期待されている.精神科訪問看護基本療養費を算定できる職種は保健師,看護師等以外に作業療法士(以下,OTR)である.看護師等に対する調査は実施されているが,OTRを対象としたものは見当たらない.看護師等を対象とした文献では,「利用者との関係構築の難しさ」「支援技術の向上の必要性」等が課題に挙げられているが,OTRが感じている課題は見つけることが出来なかった.そのため,調査する必要があると考えた.【目的】訪問看護を実践する上で作業療法士が不足していると感じていることをインタビュー調査で聞き取り,訪問看護の課題について検討することを目的とする.【方法】研究対象者は精神科病院に約20年勤務し,独立型訪問看護ステーションに常勤として5年以上従事し,OT県士会主催の勉強会等に参加し,実践報告等を積極的に行っている作業療法士1名である.本研究の意義,目的,方法などについて,文書と口頭で説明し,協力を得た.インタビュー内容は「訪問看護で上手くいっていないこと,支援を継続するために必要なこと」とし,半構造化面接を実施した.語られた内容はICレコーダーによる録音を行った.録音されたデータから逐語録を作成し,SCAT(Step for Coding and Theorization)の手法を用いて分析した.分析については質的研究の経験を有する精神科作業療法士とともに実施した.本研究は森ノ宮医療大学の倫理審査委員会にて承認を得て実施した.【結果】<上手くいっていないこと>:利用者宅への単独訪問が多いため,距離が近くなりやすいというリスクの自覚が必要である.なぜなら距離が近くなるということは,利用者への感情移入がおこりやすく,親密感を感じ,業務の役割が不明瞭になりやすいためである.業務の役割を遂行しようとすると,プライベートな関係性でないことが顕在化し,良好な関係性の維持が困難となる.そのため良好な関係性を維持するためには,OTRは関係性の相対化が生じていることを客観視する必要性がある.また,医療行為の枠組み遵守が求められるが,利用者の多様なニーズに対応しようとすると役割を超えた支援を行う危険性をもっている.さらに,関係の作り方の見誤りにより利用者の信頼喪失が生じ,関係性が切れることもある.<支援を継続するために必要なこと>:良好な関係性の喪失を防ぐために必要な支援技術を向上するための場が少ないため,研修会などの学ぶ機会がもっと必要である.仕事へのやりがいを感じるが,OTRがストレスフルな環境の中で支援を続けていくためには,スタッフまたは多職種との情報共有の場が必要である.【考察】 OTRも看護師等と同様に利用者との関係性の構築に苦慮していることがわかった.支援技術を高めるためには困っていることをOTR自身が発信していかないと周囲にはわからない.なぜなら単独訪問が多いため自己開示されないと訪問時の困りごとを他のスタッフは認識できないからである.しかし,自己開示ができる場は多くはない.また,そのような場があったとしても自身の対応が批判されるのではないかと感じ,心に留めておくことを選択する可能性も考えられる.さらに,スーパーバイズを受ける仕組みが少ないため,困りごとに対する解決策に辿り着けないかもしれない.安心して困っていることを発信でき,意見交換できることによって支援技術の向上につなげていける可能性があるため,事例検討等でOTRの発表する機会を増やし,学び合える機会を増やしていくことが求められる.今後は,抽出された課題をさらに検討するため,調査の人数を増やす事が必要である.