第57回日本作業療法学会

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[PN-8] ポスター:地域 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-8-12] 作業の記録と対話を中心にした地域在住後期高齢者の健康増進プログラムの開発

高木 雅之 (県立広島大学保健福祉学部)

【はじめに】地域在住高齢者を対象とした作業についての講義,記録,対話を組み合わせた健康増進プログラムが国内外で開発され,効果を示している.今回,従来のプログラムより実施しやすく,より高齢な対象者にも適応できるよう,作業の記録と対話を中心とした健康増進プログラムを開発した.
【目的】本研究の目的は,作業の記録と対話を中心とした健康増進プログラムを実施し,プログラムの効果と実施可能性を評価することである.
【方法】前後比較研究を用いた.対象者は75歳以上の地域在住高齢者であり,介護予防・日常生活支援総合事業通所型サービスC(以下,通所C)を終了した者であった.対象者の募集は,通所C終了時に参加者へのチラシ配布と呼びかけにより行った.通所C参加者10名中8名が研究協力に同意し,プログラムに参加した.
 プログラムセッションは週1回2時間,計5回実施された.プログラムは作業についての記録と対話で構成された.作業についての記録には,高木ら(2020)が開発した活動日記を簡素化したもの(以下,作業記録)を使用した.対象者にはプログラム期間中毎日,作業記録をつけるよう依頼した.作業についての対話は,自宅でつけてきた作業記録を基に,集団とペアの2通りの形態で行われた.対象者は1週間に印象に残った作業,日々の作業経験の傾向,満足を感じられる作業,次週までにしたい作業などについて話した.
 成果指標として,プログラム開始時と終了時に,日頃の活動満足度尺度,社会活動に関連する過ごし方満足度尺度,5回立ち上がりテスト,握力,老年期うつ検査-15-日本語版を測定した.Wilcoxon符号付き順位和検定を用いて,プログラム前後での測定値の変化を検討し,効果量rを算出した.またプログラム実施可能性を検討するために,終了時にプログラムに対する主観的評価を求めた.評価は「教室に満足した」,「生活が充実した」,「記録が負担だった」といった8項目に対して,5件法(「とてもそう思う」~「まったく思わない」)で行われた.本研究は,発表者が所属する大学の研究倫理委員会の承認を得て実施された.
【結果】対象者の平均年齢(標準偏差)は84.5(3.5)歳だった.女性が8名中6名だった.対象者全員が5回すべてのセッションに参加した.成果指標のうち,社会活動に関する過ごし方満足度尺度(p=.05, r=.49, 95%CI[.46-.77])と5回立ち上がりテスト(p=.01, r=.61, 95%CI[.22-.84])においてプログラム前後で有意差がみられ,効果量は大きかった.社会活動に関する過ごし方満足度尺度の開始時の中央値(四分位偏差)は44.5(1.1),終了時は50.0(4.3)で,7名が向上していた.5回立ち上がりテストの開始時の中央値(四分位偏差)は9.7(2.8),終了時は8.2(1.4)で,8名全員が向上していた.プログラムに対する主観的評価では,「教室に満足した」,「教室は楽しかった」,「気持ちが前向きになった」,「他の参加者との親睦が深まった」の4項目において,対象者全員が肯定的な回答をした.
【考察】対象者は先行研究と比較し高齢であったが,出席率は高く,対象者はプログラムに対する満足や楽しさ,気持ちの前向きさ,対象者同士の親睦を感じていたことから,高齢な対象者に対する本プログラムの実施可能性を確認できた.また今回のプログラムでは,作業記録を用いた対話を中心としたシンプルな内容であったが,地域在住後期高齢者の社会活動への参加を促進し,下肢筋力を向上させる可能性が示された.これらのことから,作業記録を用いた対話を中心としたプログラムは,地域在住後期高齢者の健康増進プログラムの1つとして有用かもしれない.