第57回日本作業療法学会

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[PN-8] ポスター:地域 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-8-3] 元教師の男性高齢者が退職後に新たな活動を獲得するプロセス:質的研究

小原 萌夏1, 野村 健太2 (1.慈誠会・練馬高野台病院リハビリテーション部, 2.目白大学保健医療学部作業療法学科)

【はじめに】近所づきあいがほとんどない高齢者の割合は,女性より男性のほうが高いとされている(内閣府,2019).また,男性高齢者は地域での活動参加や他者交流の頻度が減少し,閉じこもりになると考えられている(福尾,2021).これは,仕事が役割であった男性高齢者は退職を機に地域で行う活動を見つけられないことが原因の1つと考えられており,解決のための知見が十分に蓄積されているとは言い難い.
【目的】本研究の目的は,元教師の男性高齢者が仕事に代わる新たな活動を獲得するプロセスを解明することである.本研究により,男性高齢者が退職後に地域で新たな役割を見つけることを,作業療法士が支援するための示唆が得られることが期待できる.
【対象】対象者は,退職してから5 年以内であり,地域の講座やサロン活動に参加しているA市在住の60歳代後半の男性高齢者B氏とC氏の2名とした.B氏は妻と二人暮らしで元小学校の教員,C氏は一人暮らしで元中学校の教頭である.
【方法】対象者が退職してから現在の生活について,半構造化面接を実施した.質問項目を6つ作成し,面接前に対象者に提示し対象者が面接内容を理解した上で面接を実施した.面接はICレコーダーに録音し,後日逐語録を作成した.分析はSteps for Coding and Theorization(以下,SCAT)を用いた.分析のプロセスは,SCATを用いた原著論文の執筆経験がある共同筆者のチェックを受けた.本研究は筆者所属機関の研究倫理審査会の承認を受けている.
【結果】SCATにおけるテーマ・構成概念を〈 〉の記号で示しながら,ストーリーラインの要約を以下に述べる.B氏とC氏は両者とも順に〈退職後やりたいことが不明確〉〈家に閉じこもっていると不健康〉〈働いていた時と似た生活リズムの獲得〉〈地域活動への参加〉を経験した.〈地域活動への参加〉のきっかけは,B氏は〈A市の広報で興味のある地域活動を発見〉,C氏 は〈地域包括支援センターの看護師の紹介〉であった.元教師という職業柄,人と関わることが好きだったので,〈抵抗感なく地域活動に参加〉〈能動的に地域活動に参加〉し,〈自分の役割ややりたいことの条件の明確化〉が進み〈自分でもできる役割の紹介〉を受け,B氏は〈介護の学校〉,C氏 は〈地域環境委員〉という〈新たな活動との出会い〉,〈人との出会いがとても大切であると実感〉に至った.
【考察】元教師の男性高齢者が新たな活動を獲得するプロセスに重要なことは,健康に対する問題点の認識や,地域の人とのつながり,専門職による講座への参加を経て自分の役割ややりたいことの条件の明確化が進み,役割の紹介を受けることであることが示唆された.小野寺ら(2008)は,地域在住男性高齢者の研究において,介護予防事業への参加のきっかけとして「退職を契機とした自己の課題の明確化」「参加行動を促す外的要因」の2つカテゴリを抽出している.「退職を契機とした自己の課題の明確化」は本研究の〈家に閉じこもっていると不健康〉と,「参加行動を促す外的要因」は〈A市の広報で興味のある地域活動を発見〉,〈地域包括支援センターの看護師の紹介〉と類似していると考えられる.作業療法士として,男性高齢者の新たな活動の獲得を支援するためには,まず人と関わることの抵抗感と本人の周囲の支援者および地域活動をアセスメントし,それに基き個人に合わせた活動を本人,家族に提案していく必要があると考えられる.本研究は一部の地域における元教師の男性高齢者を対象としたため,一般的な男性高齢者に当てはまるわけではない.