第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

地域

[PN-9] ポスター:地域 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PN-9-12] 発達の気になる子どもの送迎サービスで使用される事前情報シートや対応マニュアルの有用性についてのアンケート調査

森川 芳彦1, 谷口 恵美2, 吉村 学2,3 (1.専門学校川崎リハビリテーション学院作業療法学科, 2.川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンター, 3.川崎医療福祉大学リハビリテーション学部 作業療法学科)

序論:現在,共働き家庭の増加に伴い,幼児や就学児の保育施設や児童クラブなどへの送迎を行う,ファミリーサポート・センター事業(ファミサポ)のニーズが高まっている.A市のファミサポでは,援助を受ける依頼会員と,援助を行う提供会員の2種類の会員があり,職員が依頼会員に対して提供会員の紹介業務や打ち合わせ業務を担っている.近年,多動児の送迎は増加傾向であり,提供会員は対応に苦慮している現状がある.岡﨑(2008)は,提供会員が要支援児の対応で不安を感じており,専門機関の支援の必要性を報告している.また,過去の調査研究において,ファミサポの送迎に関してOTが関わった研究は散見されない.
目的:今回,ファミサポで提供会員が使用する事前情報シートや対応マニュアルの作成に携わった.事前情報シートは5段階のチェック式の質問紙で,対象児の多動の程度を知るためのものである.対応マニュアルは送迎時の多動児の対応方法をフローチャートにしたものである.本研究の目的は,インタビューとアンケート調査を用いて,上記2つの書類が職員に有用な内容であったか,また,提供会員に理解しやすい内容であったかについて明らかにすることである.
方法:職員2名へのインタビューは,質問項目を半構造化し,事前情報シート・対応マニュアルの有用性と改善点について質問した.また,多動児の送迎に関する研修会に参加した提供会員には,会場で無記名のアンケートを配布し回収した.インタビューとアンケートの実施は書類使用開始から8カ月が経過した時点とした.本研究は当施設の倫理委員会の承認(5598-00)を得て行い,研究対象者には書面で説明し承諾を得た.
結果:職員のインタビューでは,「事前情報シートを用いたことで依頼会員・提供会員・職員間で対象児の共通理解が行いやすくなった.」との回答を得た.また,対応マニュアルに関しては,「対象児の多動傾向を軽減させるために車の運転席や窓の周辺をチェックする項目があり,実践しやすかった.」との意見があった.一方では,「提供会員は対応マニュアルの説明により多動児を対応する可能性があると知り不安に思う.」「提供会員がその場で多動の原因を考え対応することは難しい.」「対応マニュアルは文字が多く,補足資料が必要である.」との意見があった.提供会員のアンケートは19名から回答が得られた.事前情報シートの分かりやすさは「はい」89.5%,「いいえ」10.5%であった.対応マニュアルの分かりやすさは「はい」100%であった.書類の使用経験の有無に関しては,事前情報シートが「あり」21.1%,「なし」73.7%,対応マニュアルが「あり」5.3%,「なし」89.5%であった.事前情報シートは,「保護者に子どもの様子を直接質問しにくいため,事前に様子を知ることができ,サポート時の心構えになる.」,対応マニュアルは「多動の原因と対応を3つにタイプ分けしてあり,対応がスムーズになる.」といった肯定的な意見があった.
考察:事前情報シートは,職員・提供会員ともに肯定的な意見が多く,事前に多動について理解でき,送迎時の有益な情報になり得ることが示唆された.対応マニュアルは,提供会員は分かりやすいとの意見が多かった一方で,職員からは「提供会員が多動の原因をとっさに考え,対応することは難しい.」といった慎重な意見もあった.このことは,職員が提供会員に対応マニュアルを配布する際に,職員自身が多動の原因や支援方法を十分に理解し,説明する必要があると考えたためであると推察された.今後,職員が提供会員の理解を促しやすい補足資料を検討したい.