第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

理論

[PO-2] ポスター:理論 2

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PO-2-3] 作業バランス綱渡りイメージの開発

山根 奈那子 (県立広島大学総合学術研究科保健福祉学専攻修士課程)

【開発の背景と目的】
 健康的な生活のために作業バランスが重要とされているが,その捉え方は時代や論者によって異なり十分なコンセンサスが得られていないと指摘されている1).2010年〜2022年までに研究された作業バランスを評価する尺度に関する15文献をレビューした結果,定義に類似した記述内容に共通する要素として,「作業の量」,「作業のバリエーション」,「自身の価値観との一致」,「作業遂行の結果」のカテゴリが抽出された2).さらに該当分野の専門家からの意見を受け,「あなたを取り巻く環境」,「サポート」を加え,作業バランスの視覚化を試みた.本報告の目的は,開発した作業バランス綱渡りイメージ(以下,綱渡りイメージ)とその使用経験を紹介することである.本報告は,所属機関の研究倫理委員会の承認を得ている作業バランスプログラム開発研究の一部である.報告すべき利益相反はない.
【作業バランス綱渡りイメージ】
 「作業の量」は綱渡りをしている人がバランスを保つために手に持つ棒に例える.手に持つ棒の重量や長さが程よいこと,つまり適度な量の作業が存在する必要がある.「作業のバリエーション」は綱渡りで渡る綱の幅に例える.作業に多様性が存在する,つまり進む綱の幅が広く豊かであるとバランスが取りやすく,より安定して渡る土台を生み出すことができる.「自身の価値観との一致」は綱を渡る人の主観的なものとして経験され,渡っている人の表情に現れる.実際に経験する作業の組み合わせが価値観と一致していれば,満足した表情で渡ることができる.「作業遂行の結果」は綱渡りを成功させ,行き着いた先にある幸福感や満足感などの成果が得られることに例える.綱を渡る目的は様々に存在し,作業を遂行することで得られる成果に対する意味や目的,期待が作業を行う原動力になり,より適する作業バランスに向けた戦略に影響すると考える.「あなたを取り巻く環境」は,天候等で例えられ,社会的環境や物的資源,制度を表す文脈的な要因である.「サポート」は.各個人を支える信念や困難への対処法を示し,助けを必要とする時の援助システムや自分らしさを創り出す人や世界とのつながりの存在を表す.以上の要素が適度に絡み合うことで綱を渡る状態が説明でき,作業バランスを可視化し整理することができる.
【使用経験】
 作成を依頼した大学1年生8名が,自身の綱渡りイメージ図を作成した.棒(課題やアルバイトなど作業の量)を持ち,綱(趣味やサークルなどバリエーション)を渡るときの表情(疲れ,楽しいなど価値観との関連)が示され,綱の先にあるのは具体的な目標や将来の夢(結果)であった.友人や教員といった環境,奨学金や仕送りなどのサポートも描かれた.
【今後の展望】
綱渡りイメージによる可視化により,作業バランスの評価や調整を行うことができ,作業と健康との関連を明らかにする研究を展開できると考える.作業の視点を持つことを強みとする作業療法士が,作業バランスの評価や介入を啓発するとともに,作業バランスに着目した介入の効果を科学的に立証することが必要である.今後評価法として信頼性や妥当性が保証できるか,さまざまな対象に実施することで検証していきたい.
【文献】
1)Wagman P, Håkansson, C & Björklund A: Occupational balance as used in occupational therapy: A concept analysis. Scandinavian Journal of Occupational Therapy 19: 322-327, 2012
2)山根奈那子,吉川 ひろみ:作業バランスを評価する尺度と定義に関する文献レビュー.作業科学研究16:41-54,2022