第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-1] ポスター:基礎研究 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PP-1-5] 回復期リハビリテーション病棟入院患者におけるトイレ動作時の視覚探索の分析

佐藤 里沙1, 塩浦 宏祐1, 小澤 啓介1, 李 範爽2 (1.一般財団法人榛名荘 榛名荘病院, 2.群馬大学大学院保健学研究科)

【はじめに】
 日常の作業で人間が何らかの動作を開始する時,それに先行する視線の動きがあると言われており(山中,2008),特にトイレなど狭い空間では位置関係を捉えながら身体操作を行うため,視知覚のはたらきが一層重要とされている(末廣,2008).昨今,トイレ動作の視線分析に関する報告は増えつつあるが,動作自立度と視線との関係について着目した研究は限られている.本研究は回復期リハビリテーション病棟入院患者を対象に,トイレ動作自立者・非自立者間における視覚探索の違いを明らかにすること,視覚探索と心身機能・活動能力との関連性を検討することを目的とした.
【方法】
 対象は回復期リハビリテーション病棟入院患者のうち,主にトイレで排泄を行っている43名(77.7±9.6歳,男性20名,女性23名,脳血管16名,運動器18名,廃用9名,独歩・杖歩行17名,歩行器歩行7名,車椅子19名)であった.初期評価時に視線計測装置(Tobii Pro)を用いてトイレ動作時の視線を計測,以下の指標を算出した. ①注視点転導回数,②注視場所の種類数,③各注視点への停留時間(ミリ秒),④注視点転導回数/注視場所の種類数であった.④の値については,大きくなるほど時間内に複数回同じ場所への注視と転導を繰り返しているという解釈になる.また,心身機能・活動能力指標として握力,バランス(Functional Balance Scale;FBS),認知機能(Mini Mental Scale Examination;MMSE),日常生活自立度(Functional Independence Measure;FIM)を用いた.FIMは,FIM-total,FIM-motor,FIM-cognitiveを求めた.統計解析では,まずトイレ動作を要素動作に細分化し(車椅子群の場合:トイレ入室から便座に近づく→ブレーキをかける→フットサポートから足を床に下す→車椅子から立ち上がる→方向転換→下位操作→着座),各移動手段における自立者・非自立者を2群に分け,Mann-WhitneyのU検定を用いて群間比較を行った.更に,視覚指標と心身機能・活動能力指標との関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.尚,本研究は当院の倫理委員会の承認を得て開始し,対象者に対し研究の参加への同意を得て実施した.
【結果】
 車椅子・非自立群において,「車椅子から立ち上がる→方向転換」の間における「手部」,「便器手すり」の③注視点停留時間が自立群に比べ有意に長かった.また,視覚指標と心身機能・活動能力との関連では,計14組の相関を認めたが,特に在院日数と「車椅子から立ち上がる→方向転換」の間の①注視点転導回数,②注視場所の種類数,④注視点転導回数/注視場所の種類数のそれぞれにおいて,高い正の相関(rs>0.7)がみられた.
【考察】
 車椅子・非自立群において「手部」,「便器手すり」への注視時間が増加していた.車椅子使用者が便器に移るためには一度重心を上方に押し上げ,再度押し上げる必要がある.また方向転換に伴う頭部回旋が生じる.重心の上下移動や頭部回旋は転倒誘発要因であることが知られており,車椅子・非自立群では運動制御を補う戦略として視覚を利用したと考えられる.また,自己身体と環境との接点である「手部」と「便器手すり」がその視覚代償の基準点であった可能性が示唆された.在院日数と④注視点転導回数/注視場所の種類数との正の相関は,非効率的な視覚探索を行う対象者ほど在院日数が長いことを示唆する結果であった.