第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-10] ポスター:基礎研究 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PP-10-3] 立ち上がり動作における無料の二次元動作解析ソフトウェアによる骨盤前傾角と骨盤角に対する相対的な股関節屈曲角度の測定

村上 正和, 清本 憲太, 合田 央志 (日本医療大学リハビリテーション学科 作業療法学専攻)

【序論】
 立ち上がり動作は日常で頻繁に繰り返される動作の一つであり,作業療法場面でしばしば治療対象となる.対象者の動作を客観的に捉えるには三次元動作解析が理想とされるが,機器が高価で測定スペースも限られ臨床に導入しにくい.そのような背景において,二次元動作解析を用いた立ち上がり動作の解析は散見され,体幹や下肢の関節角度の測定が試みられている.しかし,立ち上がり動作において骨盤の前後傾角度を二次元動作解析で分析した報告は少ない.また,股関節運動は骨盤運動にも影響を受けるが,先行研究では股関節屈曲角度を肩峰,大転子,外側上顆の3点から成す角と定義していることが多く,骨盤の前後傾を加味した相対的な股関節の屈曲角度について分析した報告は少ない.
【目的】
 本研究の目的は立ち上がり動作における股関節屈曲角度,骨盤前傾角度,及び骨盤前後傾に対する相対的な股関節の屈曲角度について,無料の二次元動作解析ソフトであるKinoveaで測定し,その妥当性を三次元動作解析との比較から検討することとした.
【方法】
 筆頭演者が所属する機関の倫理委員会の承認を得て実施し,対象者には本研究について説明し同意を得た.対象者は健常成人10名とした.対象者の左肩峰,左上前腸骨棘,左上後腸骨棘,左大転子,左外側上顆の5点にマーカーを貼付した.対象者は高さ38cmの椅子に着座し,両上肢を胸の前で組んだ姿勢から1回立ち上がり動作を行った.ビデオカメラは対象者を矢状面から捉える位置に1台,その位置から対象者を中心に30°前方に1台設置した.対象者が立位となった際に画面の中央になる高さ,及び距離にビデオカメラを設置し,その高さは78cm,距離は4メートルであった.Kinoveaで関節角度を算出する際には三角関数を用いた独自の計算式を作成した.三次元動作解析にはFrame-Dias Ⅴを用いた.統計解析では対象者の各角度の最大値をKinoveaとFrame-Dias Ⅴそれぞれで算出し,Frame-Dias Ⅴの測定値を従属変数,Kinoveaの測定値を独立変数とした重回帰分析を実施した.有意水準は5%とした.
【結果】
 Kinoveaの測定値は股関節屈曲が111±14°,骨盤前傾が11±8°,相対的な股関節屈曲角度が51±16°であった.Frame-Dias Ⅴの測定値は股関節屈曲が110±15°,骨盤前傾が12±8°,相対的な股関節屈曲角度が56±14°であった.重回帰分析の結果,回帰式の決定係数(R2),標準偏回帰係数(β),有意確率(P)値は,股関節屈曲(R2=.945, β=.975, P<.000),骨盤前傾(R2=.625, β=.816, P=.004),相対的な股関節屈曲(R2=.865, β=.938, P<.000)であり,全ての角度で有意な回帰モデルが作成された.
【考察】
 本研究では立ち上がり動作中の股関節屈曲角度,骨盤前傾角度,及び相対的な股関節屈曲角度を二次元動作解析ソフトであるKinoveaにより測定し,三次元動作解析との比較から測定値の妥当性を検討した.全ての部位で有意な回帰モデルが作成されたことから,Kinoveaを用いた本法は立ち上がり動作の客観的な関節角度の測定方法として妥当性があり,関節角度の分析ツールとして有用である可能性が示唆された.骨盤前傾角度の決定係数はやや低値ではあるが,平均値を見るとその差は小さく,臨床での活用にある程度耐え得るものと考える.動作分析を実施する際に本法を利用することで,簡便に費用をかけず客観的な動作分析が可能であり臨床的意義のあることと考える.