第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-10] ポスター:基礎研究 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PP-10-4] 二重課題を構成する認知課題の刺激提示モダリティの違いが皮質脊髄路の興奮性に与える影響について

池田 舞衣, 有賀 理恵子, 松本 杏美莉, 張 雲鶴, 梁 楠 (京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻認知運動機能制御科学研究室)

【はじめに】
 2つの課題を同時に行う二重課題 (dual task,DT)は,各課題を単独で行う単一課題 (single task,ST)と比較してパフォーマンスが低下することがあり,この現象はDT干渉と言われている.会話しながら歩くなどDTは日常生活で多く行われるが,障害や加齢によってDT干渉の増加が報告されており,臨床では運動と認知を同時に行うDT訓練が行われている.しかし,様々な対象者や課題設定に関するパフォーマンスレベルでの研究は多いものの,DTを構成する認知課題の種類,特に刺激提示のモダリティに着目した研究は少なく,DT干渉の背景にある中枢メカニズムについても明らかでない.
【目的】
 本研究では,視覚性刺激と聴覚性刺激を用いた認知課題について,それぞれのパフォーマンスおよびそれらを運動課題と同時に行う際の運動パフォーマンスに与える影響の違いを明らかにすることを目的とした.また経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:TMS)を用いて,DT中の皮質脊髄路の興奮性変化が認知課題の刺激提示モダリティの違いで異なるのか,パフォーマンスとの関連性も含めてDT干渉の背景にある中枢メカニズムの解明に繋げる.臨床的意義として,エビデンスに基づいた適切な課題選択や,多くの注意を必要とする作業へのアドバイスを想定している.
【方法】
 本研究は,所属機関の倫理審査委員会の承認を得て事前に説明を行い,文書にて同意を得られた右利き健常成人6名を対象とした.運動課題は非利き手の母指と示指の指腹つまみによるピンチ課題で,最大随意筋力の20%を30秒間維持する課題とした.前方のモニターで各被験者の20%のピンチ力を提示し,開始合図後5秒以内で力調節を行い,その後フィードバックなしで課題を行った.認知課題は1.5秒毎に連続的に提示される20個の数字に対してn個前と同じ数字が提示されたときに反応するnバック課題を実施.数字がモニター上に表示される視覚性刺激と音声で流れる聴覚性刺激を,それぞれ1バック(難易度低)と3バック(難易度高)で行い,利き手でスペースキーを押し反応した.コントロール課題であるST中は無関係な数字が提示されるがピンチ課題に集中し,DT中は運動課題と認知課題を同時に行い両課題に集中するよう指示を与えた.パフォーマンスに関して認知課題は正答率,運動課題は目標筋力からの誤差を積分値で算出した.TMSは右一次運動野に課題中5回与え,運動誘発電位(motor evoked potential: MEP)は左第一背側骨間筋から記録し,MEP振幅値と背景筋電図(background EMG; B.EMG)との比で皮質脊髄路の興奮性を評価する指標とした.
【結果】
 認知課題のパフォーマンスに関して,1バック課題よりも3バック課題で正答率が低かったが,視覚と聴覚刺激間,STとDT間での差は認められなかった.運動課題のパフォーマンスに関して,DTでは刺激提示モダリティによる差は認められなかったものの,聴覚性認知課題遂行時の方が正確性への影響が大きい傾向にあった.また,刺激提示モダリティに関わらず認知課題の難易度が上がるにつれてDTの正確性が向上する傾向にあった.TMSで得られたデータに関して,STと比較してDT遂行中ではMEP/B.EMG比は増加傾向にあり,聴覚性認知課題遂行時のほうがより顕著であった.
【考察】
 本研究より,ST遂行中と比較してDT遂行中で皮質脊髄路の興奮性が増加傾向にあったこと,また視覚性認知課題遂行時よりも聴覚性認知課題遂行時の方が運動パフォーマンスへの影響が大きく,かつ皮質脊髄路の興奮性が増加傾向を示したことから,刺激提示モダリティの違いによって皮質脊髄路の興奮性が変化することが示唆された.