第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-2] ポスター:基礎研究 2

Fri. Nov 10, 2023 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PP-2-4] 老化促進モデルマウスに対する運動介入が骨格筋量と筋萎縮関連因子へ及ぼす影響

大川 航洋1,2, 西元 淳司2,3, 峯岸 雄基4,5, 野部 裕美1 (1.文京学院大学大学院保健医療科学研究科, 2.埼玉医科大学総合医療センターリハビリテーション部, 3.広島大学大学院人間社会科学研究科, 4.埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科, 5.日本学術振興会特別研究員DC)

【はじめに】サルコペニアは,骨格筋量の減少と筋力の進行性及び全身性の喪失を特徴とし,サルコペニアの発症による高齢者の生活の質の低下が問題視されている.しかし,サルコペニアの予防に対する運動の効果については,その全てが明らかにはなっていない.そこでリハビリテーションの分野において,運動が骨格筋量の減少や筋力の低下を抑制する生体内分子レベルでの骨格筋萎縮における予防因子について,明らかにしていく必要があると考える.運動はMuscle RING-Finger protein-1(MuRF-1)やAtrogin-1といった筋萎縮関連因子の発現を抑制させ,サルコペニアの予防や発症の遅延には運動負荷が有効とされている(Wiedmer P et al, 2021).老化促進モデルマウスP8(Senescence Accelerated Mouse P8:SAMP8)は,32週齢で骨格筋量の減少が始まり,40週齢でサルコペニアモデルマウスとして使用されている.SAMP8が40週齢でサルコペニアになることに対して,骨格筋量が減少し始める段階からの運動負荷がサルコペニアを予防することができるか,筋萎縮関連因子の発現(発現量)に影響を与えるのかは不明である.
【目的】本研究では,32週齢から40週齢の間の8週間ホイール走行を行い,腓腹筋線維横断面積と筋萎縮関連因子(MuRF-1,Atrogin-1)に与える影響について明らかにすることを目的とした.
【方法】対象はSAMP8/TaSlcマウス(雄性30週齢)とした.運動群(n=6)は32週齢時点から1時間/日,週5日,8週間ホイール走行を行なった.非運動群(n=6)は通常のケージにて飼育した.タイムポイントは40週齢時点とし,体重,餌の摂取量,ホイール回転数,総走行距離,走行速度,筋線維横断面積,MuRF-1とAtrogin-1のタンパク質発現量を比較検討した.統計学的解析は,対応のないt検定を用いて,有意差は5%未満とした.本研究は動物倫理委員会の承認後に実施した(承認番号2021-0002,3399).
【結果】各週齢での体重や餌の摂取量に両群間で有意な差を認めなかった.ホイール回転数の総走行距離は約33 kmであり,走行速度は約14 m/minであった.40週齢における腓腹筋の筋線維横断面積は,非運動群で1705.4±426.9 μm2,運動群で2197.0±641.7 μm2であり,両群間で有意な差を認めなかった. MuRF-1の発現量は非運動群で5.1±2.4 pixel,運動群で1.9±1.1 pixelであり非運動群と比較して運動群で有意に少なかった(p=0.012). Atrogin-1の発現量は,非運動群で9.8±2.1 pixel,運動群で13.6±6.2 pixelであり,両群間で有意な差を認めなかった.
【考察】本研究では筋線維横断面積に有意な差を認めなかった.今回のホイール走行速度は,運動強度として中等度以下であり,有酸素運動に近い運動負荷であった可能性がある.一方,MuRF-1の発現量は有意に減少した.老齢のICRマウスに対して長期間,中等度のトレッドミル走行を行なうことで,腓腹筋においてMuRF-1の発現量が減少したと報告されている(Liang J et al, 2021).本研究の結果からも,中等度以下の運動負荷で筋萎縮関連因子であるMuRF-1の発現量が抑制されたことを明らかにした.MuRF-1の発現量が少なかったにも関わらず,筋線維横断面積に有意な差を認めなかったことから,サルコペニアに移行する前段階ではユビキチン・プロテアソーム経路とは異なる経路が筋萎縮に大きく影響したことが推察され,追加の検証が必要である.また,サルコペニアの予防について,マウスでは軽いランニング程度の運動負荷は不十分である可能性が示唆された.サルコペニア予防における運動指導の内容には,更なる研究が必要であると考える.