第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-4] ポスター:基礎研究 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PP-4-1] 特別養護老人ホームにおけるインシデント発生の時間・場所・要因

大浦 智子1, 木下 亮平2, 有久 勝彦3, 宮口 英樹4 (1.奈良学園大学, 2.大阪人間科学大学, 3.関西福祉科学大学, 4.広島大学大学院)

【序論】高齢者の増加に伴い要介護高齢者も増加し,厚生労働省は2025年度に介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム:特養)利用者が73万人(2017年度に比して25%増)と試算している.特養ではリハビリテーション(リハ)専門職の配置は義務付けられておらず,機能訓練指導員としての配置加算があるのみである.そのため作業療法士(OT)が配属されている特養は限定的であるが,病院や施設,在宅から特養への入所前にOTがリハを提供していることが想定される.特養に所属するOTだけでなく特養入所以前に関与しているOTが入所後の要介護高齢者の生活場面の潜在的リスクを把握・予測し事故の予防を図ることは,利用者の安全・安心した生活に寄与できる.
【目的】特養におけるインシデント発生の時間・場所・要因を明らかにすること.
【方法】A県の特養Bにおける2021年4月から2022年3月のインシデントレポートを対象に,発生月日・時間,場所,内容をデータとして収集し,内容からインシデントの種別と要因を集計した.集計に先立ち,インシデントの種別は主に活動や管理種別でラベルを付し類似ラベルを集約,要因は起因する要因にラベルを付し類似ラベルを集約した.本報告は特養におけるインシデントの実態を把握するための基礎的検討であり,記述統計によって実態を明らかにする.研究実施にあたって所属機関C研究倫理委員会の承認と,特養Bへの文書と口頭による説明により同意を得た.
【結果】1年間のインシデント報告数は199件だった.1か月あたりのインシデントは16件(中央値),月の前半に集中する傾向があった.1年間を通じたインシデント発生時間は,18時台が最も多く9.5%(19件),次いで23時台が9.0%(18件),10時台が8.0%(16件)だった.また,発生場所は多い順に,居室が40.7%(81件),リビングが37.2%(74件),トイレが9.5%(19件)だった.場所別の発生時間帯は,居室(全81件)では23時台が18.5%(15件)で最も多く,次いで20時台と21時台がいずれも8.6%(7件)だった.同じく,リビング(全74件)では18時台17.6%(13件),17時台13.5%(10件)の順,トイレ(全19件)では10時台と12時台がいずれも15.8%(3件)だった.全199件のインシデントの種別は多い順に,「医療・リスク管理」が31.7%(63件),「起居移動」が24.1%(48件),「福祉用具管理」が18.6%(37件),「食事」が15.6%(31件)だった.インシデントの要因は多い順に,「利用者と職員」(利用者の特性に起因する点と職員のケア技術の相互作用)が34.7%(69件),「職員」(職員のケア技術に起因)が30.2%(60件),「利用者と環境」(利用者の特性に起因する点と環境の不適合)が19.1%(38件)だった.
【結論】インシデントが夕方から深夜にかけて居室やリビングで発生する回数が多いこと,「医療・リスク管理」をはじめ「起居移動」や「福祉用具管理」,「食事」に関する事項に偏っていることから,OTは日中関与する個別対応時の評価だけでなく,少人数の介護職員が複数の利用者に対して同時にケアを提供するマルチタスクの介護場面の特性をふまえた支援方法を申し送るなどの配慮が求められる.特に,利用者個々の特性と介護職員の人員・物理的環境や体制を念頭に,OTリスク管理や環境調整などの面で寄与できる可能性がある.本報告は介護事故防止およびインシデント対策に関心の高い単一施設の結果であるため一般化に限界があるが,介護事故防止に向けた基礎資料として活用できる.
謝辞:本研究は三井住友海上福祉財団の助成により実施した.協力施設およびご協力いただいた方々に深謝いたします.