第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-9] ポスター:基礎研究 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PP-9-3] 注意バイアスと楽観性および悲観性との関連

丸田 道雄1, 下木原 俊2, 赤崎 義彦3, 日高 雄磨4, 田平 隆行5 (1.長崎大学生命医科学域(保健学系), 2.鹿児島大学大学院保健学研究科博士後期課程, 3.垂水中央病院, 4.大勝病院, 5.鹿児島大学医学部保健学科作業療法学専攻)

【背景と目的】
 近年,サクセスフル・エイジングには楽観性などの心理的要素が重要な役割を果たすことが明らかとなっている(Dumitrache et al, 2019).楽観性を高める方法として注意バイアス修正法(ABM)が有効である可能性があるが(Kress et al, 2019),注意バイアス(AB)と楽観性との関連は不明確である.また,脅威回避型(否定的刺激から注意を逸らす)やポジティブ探索型(肯定的刺激に注意を向ける)などABMのプロセスの違いによっても効果的な対象が異なる可能性がある.本研究では,プロセスの異なるDot Probe Task(DPT)とEmotional Visual Search Task(EVST)を用いてABを測定し,楽観性および悲観性との関連を明らかにすることを目的とした.
【方法】
 健常成人84名(女性48名,平均年齢24.6±4.5歳)を対象とした.DPTは,PCの画面上に注視点が呈示された後,上下対に脅威表情と中立的表情(TN条件)または中立的表情が2つ(NN条件)呈示される.次いで,上下どちらかに矢印が呈示され,矢印の向きに合わせてマウスで反応することが求められる(120試行).脅威表情と同じ位置に矢印が出現した場合を一致試行,そうでない場合を不一致試行とし,TN条件における不一致試行から一致試行の反応時間を引いた値をABの指標とした.EVSTは,PCの画面上に注視点が呈示された後,4×4で16の表情画像が呈示される.肯定的条件(16のうち1つが喜びの表情)と否定的条件(16のうち1つが脅威表情)で構成(各32試行)され,肯定的条件ではできるだけ早く喜びの表情を探すことが求められる(否定的条件では逆).肯定的条件から否定的条件の反応時間を引いた値をABの指標とした.各実験課題の表情刺激には,AIST顔表情データベースの画像を使用した(Fujimura & Umemura, 2018).楽観性は,改訂版楽観性尺度(LOT-R)で評価し,総得点と楽観性および悲観性の下位尺度得点を算出した.副次的評価指標として,情動(PANAS),反芻(RRQ),性格特性(TIPI-J)を調査した.ABと楽観性および悲観性,各指標との関連をピアソンの相関係数により検討した.なお,本研究は鹿児島大学倫理委員会の承認(210273 疫)および書面による対象者の同意を得て実施した.
【結果】
 いずれの測定方法によるABも楽観性総得点(DPT, r = 0.052; EVST, r = 0.07),楽観性下位尺度(DPT, r = 0.144; EVST, r = -0.002),悲観性下位尺度(DPT, r = 0.068; EVST, -r = 0.063)との相関を認めなかった.楽観性総得点と肯定的情動(r=0.451),外向性(r=0.314),開放性(r=0.444)が正の相関,反芻(r=0.438)が負の相関を認めた.
【考察】
 DPTやEVSTによるABは,不安やうつ症状の程度と関連が示されている一方で(Klein et al, 2018),不安に対するABMでは,訓練前後のABの状態に関わらず感情的な反応をもたらす可能性も示されている(Mogg et al, 2017).本研究の結果は,ABMの影響は否定的な情報に対するABの有無や程度に依存しない可能性を支持していると考えられるが,ABM前後のABの変化を詳細に検討するなど更なる研究が必要である.