第57回日本作業療法学会

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教育

[PR-10] ポスター:教育 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PR-10-6] 遠隔講義での統合失調症患者の地域生活評価を通じた多職種連携教育の効果

中村 泰久1, 安藤 佳珠子2, 大谷 京子2, 田中 将裕1 (1.日本福祉大学健康科学部リハビリテーション学科作業療法学専攻, 2.日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科)

【はじめに】
 世界保健機関は多職種連携教育(Interprofessional Education: IPE)を2つ以上の専門職学生が,効果的な連携を可能とし,ヘルスアウトカムを向上するために,お互いについて,お互いから共に学ぶことと定義している(2010).これまでIPEは,異なる専門職学生が講義,演習,実習科目で場と学習課題を共有して共に学ぶことでの効果が報告されてきた(小林ら,2017).しかし,近年COVID-19感染拡大で複数の専門職学生が集まり受講することが困難になり,新たな学習形式でのIPE開発が求められている.そこで,本研究では作業療法学生(OTS)と精神保健福祉士学生(MHSWS)を対象に遠隔講義形式で統合失調症患者の地域生活評価を行い,OTSとMHSWSの採点傾向から他職種理解を促すIPE(遠隔IPE)を開発して効果を検証した.
【方法】
 研究デザインは2群の前後比較試験とした.研究期間は2022年6月~2023年7月,対象はA大学の4年生のOTS群34名,MHSWS群28名とした.各群は統合失調症患者の地域生活動画を観察して統合失調症ICFコアセットを採点した.その後,遠隔講義で得られた各群のICFコアセットの採点傾向を示し,各職種が持つ特徴と専門職としてチームで担う役割の相違を説明した.評価項目は基本情報(年齢,性別,精神障害領域の実習経験日数),IPE前後でIPE準備性尺度(RIPLS),大学生のIPEにおける協働的能力自己評価尺度(協働能力尺度)測定した.統計学的解析は各群のIPE前の評価項目をχ2検定,t検定で差を比較した.IPE前後の効果判定には二元配置分散分析を用い,群(OTS群/MHSWS群)と時間(介入前/介入後)の要因での交互作用を確認した.交互作用が得られた場合,Bonferroni法を用いた多重比較検定をした.統計ソフトはIBM SPSS ver.24を用い,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は所属大学の倫理審査委員会の承認(番号2-056-02)を得て実施した.
【結果】
 OTS群(男性13名,女性21名)とMHSWS群(男性12名,女性16名)の遠隔IPE前の基本情報と評価項目に有意な差は認めなかった(p>0.05).遠隔IPE前後で交互作用を認めた評価項目はRIPLSのチームワークとコラボレーション(チームワーク)(F=8.39,p=0.01),専門性(F=5.21,p=0.03),協働能力尺度の自職種内省力(F=4.63,p=0.04),チーム形成力(F=13.71,p=0.01)であった.交互作用を認めた評価項目のうちRIPLSのチームワークはOT群が遠隔IPE前後で有意に低下(p<0.01),協働能力尺度のチーム形成力はOT群が遠隔IPE前後で有意に向上していた(p<0.01).
【考察】
 本研究で遠隔IPEを行った結果,OTS群がMHSWS群と比べRIPLSのチームワークが低下し,協働能力尺度のチーム形成力が高まった.先行研究で遠隔講義でのIPEの有効性は報告されている(Evans et al 2013).本研究の遠隔IPEは場を共有せず,OTSとMHSWSが動画観察からの採点傾向を示した内容のため,職種間の相互作用を感じづらくチームワークが低下したと考えられる.一方,OTSは統合失調症ICFコアセットの採点傾向から自職種と他職種の特徴を理解したことでチーム形成力の向上を認めたと考える.MHSW群は学習課題内で統合失調症患者の背景情報や面談情報などが提示されず,観察中心の内容のため専門性を発揮しづらく効果が得られなかったと推察する.今後,各職種の特徴を反映した共に学ぶことのできる遠隔IPEの教材開発が課題である.