第57回日本作業療法学会

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[PR-2] ポスター:教育 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PR-2-6] Clinical Reasoning OT Tool-Resume(CROT-R)にて意味のある作業実現に向けての目標を多職種と共有した事例

四戸 宏之1, 藤本 一博2 (1.新座志木中央総合病院リハビリテーション科 作業療法部門, 2.湘南OT交流会)

【はじめに】作業療法のリーズニングは,「物語的リーズニング」「科学的リーズニング」「実際的リーズニング」「倫理的リーズニング」「相互交流的リーズニング」の 5つが示される.5つのリーズニングが偏りなく踏まえた作業療法のレジュメ様式CROT-R(Clinical Reasoning OT Tool–Resume)を用いて,意味のある作業実現に向けての目標と多職で共有した事例を表現したので,CROT-Rの使用感の考察とともに事例を報告する.本報告に際し本人より同意を得ている.
「基本情報」50 代男性.友人宅で左片麻痺を発症,右中大脳動脈アテローム血栓症と当院診断後,運動麻痺増悪及びcovid-19陽性に伴い,高度医療機関へ転院し47病日目,当院回復期病棟へ転院となる.
「物語的リーズニング」A氏は公務員勤務の傍ら,イベント企画,構成作家として活躍しゲーム会社へ転職後,フリーランスとなり現在の友人宅での暮らしとなった.どんな仕事でも断らず引き受けることを大切にした.A氏主催のイベントは10年以上続き,入院を知ったイベント参加者から心配や励ましがあり,期待に応えるためにイベントを開催させたいと語られた.
「科学的リーズニング」意識清明,MMSE30点,身体機能面はBrunnstrom Stage上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅲ,感覚は表在・深部共に軽度鈍麻.発症1ヶ月で起居動作や座位が可能であったので歩行可能との文献がある.ADLを向上させるために姿勢保持能力や下肢運動機能改善を目的とした訓練や多職種連携していくことが脳卒中ガイドライン2021で推奨され,医師からは本人には高い目標であるが,ADLや身体機能向上を図るように指示があった. (Gustafsson,et al,2013)らは,病院で意味のある活動などができないことが,アイデンティティの再確立や脳損傷後の回復と適応を妨げる可能性を指摘していることから意味のある作業を取り込み,役割の維持とADLや身体機能向上を図ることとした.
「実際的リーズニング」上肢機能・歩行・ADLのプログラムを主とし,意味のある作業としてイベント開催に向けたホームページの更新が行えるようPC練習を導入した.不正アクセへの不安とイベントでの身体活動を伴う作業内容が不明確で開催可否についても不安があった.
「倫理的リーズニング」PC練習は,スタッフの監視下で履歴を削除しながらの提供とした.イベント開催は会場費の支払いと他の運営スタッフに依頼で開催も可能とのことであった.
「相互交流的リーズニング」上肢機能・歩行・ADL・PC操作練習,当日本人不在でもイベントの開催が行える企画運営策定していくことで合意が得られ,OTが開始された.歩行獲得とADL向上が図れたが友人との同居困難,covid-19陽性となり,先行きが不安となり落ち込まれた.A氏の目標を強固にするため,院内での多職種事例検討会を開催しCROT-R での情報を共有し,本人を含めた多職種で検討し合意目標は達成可能であると判断された.多くのスタッフがA氏に興味を持ち,OTはその人らしさを引き出し,目標を実現する職種であると認識された.
【結果】CROT-R はクライアントの物語やニーズを促し,文献等の裏付けにて科学的なリーズニングが可能となり,医療チームでのOTの専門性を発揮させた.更に多面的なリーズニングにて目標達成を意識し多職種連携に寄与した.
【考察】従来のレジュメ様式と比較すると,感覚的なOT実践に文献などの客観的裏付けが求められる.実践の中で各個人のOTらしさやクライアントらしさが失われる不安があったがCROT-R を通して自身が医学的及び作業療法学的な裏付けが行われていたことに改めて気付けた.クラインアントや家族,多職種連携において専門性の理解や役割りを促し,信頼性を高めた作業療法の提供が可能となるツールと考える.