[PR-3-6] 作業療法学生の課題先延ばし傾向が動機づけと自己調整方略に与える影響
はじめに
大学生の休・退学を選択する理由には,経済的理由に続き,学生生活不適応や学習意欲の低下が多いと指摘されており,その対応は作業療法教育においても重要な課題である.本学においても学習意欲を高めるために初年次から臨床現場に触れる演習や担任制度による定期的な面談から学習意欲に配慮しつつ対応している.しかし,学習しなければならない課題を延ばしてしまう傾向の学生も少なくないものの,学生が課題を先延ばしする心理要因についての報告が少ない現状である.今回,学生が課題を延ばしする傾向が学習の動機付けや課題の意図を理解し,学習の計画を立てるという自己調整方略に与える影響を検討することを本研究の目的とした.
方法
対象者は本学作業療法学専攻の1学年から3学年に在籍し説明会に参加した学生105名とした.方法は無記名のアンケート調査とし,課題先延ばし行動傾向尺度,学習動機付け尺度,自己調整学習方略尺度の回答を得た.課題先延ばし行動傾向尺度は,「不必要」に先延ばしにする傾向を「課題先延ばし傾向」(ギリギリまで物事にとりかかることを延ばす)と「約束との遅延」(待ち合わせには十分に余裕を持っていく:反転して採点)からなる5件法の尺度で,高値になるほどその傾向が強いことを示す.また,学習動機付け尺度は「興味価値」(学んでいて楽しいと思える),「私的獲得価値」(自分という人間に対して興味・関心を持つ),「公的獲得価値」(知っていると周囲からできる人とみられる),「制度的利用価値」(自分の進路目標を実現するのに必要),「実践的利用価値」(将来,仕事における実践で生かすことができる)の大項目からなる5件法で,高値になるほどその傾向が強いことを示す.さらに,自己調整学習方略尺度は「努力調整モニタリング」(難しい学習に取り組む前に基礎がわかっているか確認する)と「プランニング方略」(試験勉強の前には計画をたてる)の大項目からなる5件法の尺度で高値になるほどその傾向が強いことを示す.分析方法は,課題先延ばし行動傾向尺度のうち「課題先延ばし傾向」の点数から課題先延ばし高値群,課題先延ばし中等群,課題先延ばし低値群の3群に分け,それぞれの調査項目における群間比較を実施した.統計処理はKruskal-Wallis検定を用い,有意水準は5%とした.なお,本研究は本学の倫理審査の承認を受け実施した.
結果
105名のうち76名から回答を得た(回収率71%,平均年齢19.3±0.8歳).学習に対する動機づけは,課題先延ばし高値群が先延ばし低値群よりも有意に低く(p<0.01),下位項目では「私的獲得価値」と「実践的利用価値」が特に低かった.また,約束との遅延では課題先延ばし高値群は,中間群,低値群に比べ有意に高く(p<0.01),約束に遅れやすい行動をしていることが明らかになった.さらに,課題先延ばし高値群は,自己調整尺度における「努力性モニタリング」(p<0.01),プランニング方略(p<0.01)が低値群よりも有意に低かった.
考察
本研究から,課題先延ばし傾向の強い学生は,学習意欲が有意に低下し,約束に遅れやすいことが示された.また,自己の学習の進捗状況を俯瞰して,自分がどのように,どの程度学習が必要かどうかを自己調整することに困難を生じていることが示唆された.大学生が自己の学習進捗状況を俯瞰して認識することは,学習意欲や学習の計画を立案する能力と関係があるといわれている.よって課題を先延ばしにする学生に対しては,現状認識を内省する機会を得て学習の進捗状況を俯瞰しモニタリングする必要があると考えられた
大学生の休・退学を選択する理由には,経済的理由に続き,学生生活不適応や学習意欲の低下が多いと指摘されており,その対応は作業療法教育においても重要な課題である.本学においても学習意欲を高めるために初年次から臨床現場に触れる演習や担任制度による定期的な面談から学習意欲に配慮しつつ対応している.しかし,学習しなければならない課題を延ばしてしまう傾向の学生も少なくないものの,学生が課題を先延ばしする心理要因についての報告が少ない現状である.今回,学生が課題を延ばしする傾向が学習の動機付けや課題の意図を理解し,学習の計画を立てるという自己調整方略に与える影響を検討することを本研究の目的とした.
方法
対象者は本学作業療法学専攻の1学年から3学年に在籍し説明会に参加した学生105名とした.方法は無記名のアンケート調査とし,課題先延ばし行動傾向尺度,学習動機付け尺度,自己調整学習方略尺度の回答を得た.課題先延ばし行動傾向尺度は,「不必要」に先延ばしにする傾向を「課題先延ばし傾向」(ギリギリまで物事にとりかかることを延ばす)と「約束との遅延」(待ち合わせには十分に余裕を持っていく:反転して採点)からなる5件法の尺度で,高値になるほどその傾向が強いことを示す.また,学習動機付け尺度は「興味価値」(学んでいて楽しいと思える),「私的獲得価値」(自分という人間に対して興味・関心を持つ),「公的獲得価値」(知っていると周囲からできる人とみられる),「制度的利用価値」(自分の進路目標を実現するのに必要),「実践的利用価値」(将来,仕事における実践で生かすことができる)の大項目からなる5件法で,高値になるほどその傾向が強いことを示す.さらに,自己調整学習方略尺度は「努力調整モニタリング」(難しい学習に取り組む前に基礎がわかっているか確認する)と「プランニング方略」(試験勉強の前には計画をたてる)の大項目からなる5件法の尺度で高値になるほどその傾向が強いことを示す.分析方法は,課題先延ばし行動傾向尺度のうち「課題先延ばし傾向」の点数から課題先延ばし高値群,課題先延ばし中等群,課題先延ばし低値群の3群に分け,それぞれの調査項目における群間比較を実施した.統計処理はKruskal-Wallis検定を用い,有意水準は5%とした.なお,本研究は本学の倫理審査の承認を受け実施した.
結果
105名のうち76名から回答を得た(回収率71%,平均年齢19.3±0.8歳).学習に対する動機づけは,課題先延ばし高値群が先延ばし低値群よりも有意に低く(p<0.01),下位項目では「私的獲得価値」と「実践的利用価値」が特に低かった.また,約束との遅延では課題先延ばし高値群は,中間群,低値群に比べ有意に高く(p<0.01),約束に遅れやすい行動をしていることが明らかになった.さらに,課題先延ばし高値群は,自己調整尺度における「努力性モニタリング」(p<0.01),プランニング方略(p<0.01)が低値群よりも有意に低かった.
考察
本研究から,課題先延ばし傾向の強い学生は,学習意欲が有意に低下し,約束に遅れやすいことが示された.また,自己の学習の進捗状況を俯瞰して,自分がどのように,どの程度学習が必要かどうかを自己調整することに困難を生じていることが示唆された.大学生が自己の学習進捗状況を俯瞰して認識することは,学習意欲や学習の計画を立案する能力と関係があるといわれている.よって課題を先延ばしにする学生に対しては,現状認識を内省する機会を得て学習の進捗状況を俯瞰しモニタリングする必要があると考えられた